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「負けたら走ってろ」は時代錯誤 ドイツS級コーチが日本に残る悪しき指導法に愕然

ドイツの指導者は勝利を追求しながら「プロセスを大切にしている」

 一方ケルンも精選された少人数の選手たちが、独自の方法で厳しさを追求していた。改めて鈴木は指摘する。

「結局トレーニングは工夫とアイデア次第で、いくらでも改善の余地があるということです。こうしてドイツでは、担当する指導者に大きな責任と権限が与えられている。最大の目的は、良い選手を育てることですが、同時にチームの結果も求められ、もしもっと良い指導者がいれば交代させられます。しかし彼らは勝利を追求しながらも、それ以上にプロセスを大切にしている。ところがまだ日本では、そこを履き違えている指導者がいる」

 鈴木は都内で行われた小学生大会での光景を見て愕然とした。朝から長時間をかけて試合が続けられたのだが、ある強豪と呼ばれるチームの子供たちは、試合に負けたために延々と走らされていた。クラブを統括するのはJリーグクラブの監督経験者だった。

「若年層では、個々としっかりと向き合い、どうすればこの子が上達するのかを最優先に考え、工夫することが大切です。もちろん試合では勝つことを追求しますが、それがすべてではない。負けたら走ってろ、なんて時代錯誤も甚だしい」

 ただしブンデスリーガのアカデミーには、罰走などより厳しい現実がある。少数精鋭で活動している以上、優秀な選手を一人迎え入れることになれば、代わりに誰かが去っていく。去った選手は、自分の実力に見合ったチームでプレーをする。こうしてドイツでは、個々が適正水準で試合をする仕組みが維持されている。(文中敬称略)

[プロフィール]
鈴木良平(すずき・りょうへい)

1949年生まれ。東海大学を卒業後、73年に西ドイツ(当時)のボルシアMGへ留学。名将ヘネス・バイスバイラーの下で学びながら、ドイツサッカー連盟S級ライセンスを取得した。84-85シーズンにはブンデスリーガ1部のビーレフェルトのヘッドコーチ兼ユース監督を務めた。その後は日本女子代表初の専任監督に就任するなど女子サッカーの発展にも尽力。ブンデスリーガなどのテレビ解説者としても活躍する。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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