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イングランド名門ほど規律徹底 UEFAプロ資格者の高野剛が目撃、日本と異なる選手を「導く」指導

サッカーの母国であるイングランドは、隆盛を極めるプレミアリーグを筆頭に長い歴史によって築かれた重厚な文化や伝統があり、いつの時代も圧倒的な権威を保っている。そんな世界最高峰の舞台に乗り込み、アジア人として初めて2018年にイングランドサッカー協会(FA) 及び欧州サッカー連盟(UEFA)公認プロライセンスを取得したのが高野剛氏だ。これまで海外の育成年代を複数チーム指導してきたなかで、日本との違いを感じることも多かったという高野氏。その1つが、欧州ではチームのやり方を「教える」ことはしないこと。指導者は選手を「導く」ような練習を通じて、個々の判断力を磨いているという。(取材・文=加部 究)

2021-22シーズンのFAユースカップを制すなど育成にも定評があるマンチェスター・ユナイテッド。名門ほど規律が徹底されているという【写真:Getty Images】
2021-22シーズンのFAユースカップを制すなど育成にも定評があるマンチェスター・ユナイテッド。名門ほど規律が徹底されているという【写真:Getty Images】

高野剛「世界最難関ライセンスを持つ日本人指導者」第4回、米英でも異なる育成年代の指導環境

 サッカーの母国であるイングランドは、隆盛を極めるプレミアリーグを筆頭に長い歴史によって築かれた重厚な文化や伝統があり、いつの時代も圧倒的な権威を保っている。そんな世界最高峰の舞台に乗り込み、アジア人として初めて2018年にイングランドサッカー協会(FA) 及び欧州サッカー連盟(UEFA)公認プロライセンスを取得したのが高野剛氏だ。これまで海外の育成年代を複数チーム指導してきたなかで、日本との違いを感じることも多かったという高野氏。その1つが、欧州ではチームのやり方を「教える」ことはしないこと。指導者は選手を「導く」ような練習を通じて、個々の判断力を磨いているという。(取材・文=加部 究)

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 UEFA(欧州サッカー連盟)のプロライセンスを取得した高野剛は、日米英の3カ国で指導実績を重ね、現在はベルギー1部のシント=トロイデンで主に育成に携わっている。

 育成の現場と言えば、上意下達の伝統が染みついて教育色の濃い日本に対し、欧米諸国では自由な言動が浸透しているイメージがあるかもしれない。しかし実はサッカーの母国イングランドでは、名門クラブほど規律が徹底されているという。

「ハダースフィールドの指導をしていた時に、マンチェスター・ユナイテッドとアカデミーチーム同士の試合をしました。ユナイテッドの育成部長の部屋に通され情報交換などをしたのですが、そこにU12からU16くらいまでの対戦相手の選手たちが挨拶に来ました。全員が整った髪型で、ポロシャツの第一ボタンまではめて目線を合わせて握手をして出て行きました。猫背の選手などは1人もいない。しっかりと胸を張った姿勢を保ち、堂々とした立ち居振る舞いを見せていました」

 同じ英語圏でも、米英では大きく異なる。

「米国は言葉遣いや髪の色もすべて自由。最終的に判断を下すのは監督でも、子供たちと一緒に創っていく感覚がある。監督が『今日のトレーニングはどうだった?』と子供たちに感想を求め、子供たちのほうも率直な意見を返していきます」

 こうして米国では、ハラスメントが起こり難い環境が担保されている。一方英国では、子供たちを守る規約が発達し徹底されているという。

「私がハダースフィールドと契約を交わした時も、まず指導の実践をして、次に契約の話をして、最後に犯罪歴がないことを証明する書類を提出して完了しました。一方であまりに子供たちを守り過ぎることには賛否両論があり、ウォルバーハンプトン・ワンダラーズのように『罰走もあります』と謳っているクラブもあります」

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高野 剛

サッカー指導者 
たかの・つよし/1973年10月4日生まれ。福岡県出身。アメリカで8年間指導者を務め、2005年からサンフレッチェ広島でジュニアユース、ジュニア、トップのコーチを歴任した。2010年にイングランド3部のハダースフィールド・タウンFCの育成組織に入団。日本人2人目となるイングランドサッカー協会(FA)公認・欧州サッカー連盟(UEFA)公認A級指導者ライセンスを取得した。2012年にサウサンプトン、2013年にアビスパ福岡のコーチ、2015年にタイのBBCU FCで自身初の監督を務め、タイ・プレミアリーグ昇格へ導く。2016年から3年間ギラヴァンツ北九州のU-18監督やアカデミーダイレクターを務め、2018年にアジア人初となるFA及びUEFA公認プロライセンスを取得。また、Jリーグフットボール本部育成部に所属し、育成改革プロジェクト「Project DNA」の立ち上げに関わる。2021年、STVV(シント=トロイデンVV)のHead of Football Strategy & Development 及びManaging Director of Youthに就任しチームの根幹を支えている。

加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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