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壊された固定観念「なぜ審判は笛を?」 目指す世界一、日本で広めたい「耳が聴こえない人」のラグビー

本大会で活躍が期待される(左から)小林建太、岡村大晃、岸野楓【写真:吉田宏】
本大会で活躍が期待される(左から)小林建太、岡村大晃、岸野楓【写真:吉田宏】

「もちろん目標は世界一ですが…」世の中に広めたいデフラグビーの存在

 日本の選手たちも、ホストチームとなる世界大会へ向けて特別な思いで準備を進めている。これまでも主将を務めてきた岸野楓は、9月の合宿でこんな意気込みを語っている。

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「日本で初めての世界大会なので、もちろん目標は世界一ですが、デフラグビーの存在を世の中に広めたいと思っています。まだ皆さんあまりデフラグビーのことを知らないと思うし、今年のデフリンピックにも(デフラグビーは)入っていない。へぇー、耳が聞こえない人のラグビーがあるんだという人が多いと思います。だから来年の大会でいい成績を残すことで存在感を残して、デフラグビー頑張っているねと応援していただける人が増えたらいいなと思っています」

 岸野は岐阜聾(ろう)学校から早稲田大に進学して、体育会つまり早大ラグビー蹴球部でもFWとしてプレーした。レギュラーメンバーのみ着られる“アカクロ”ジャージには届かなかったが、現在フランスで活躍する日本代表SH齋藤直人と同期で、最終学年では優勝した世代しか歌うことが許されない第2部歌「荒ぶる」を国立競技場で歌い上げた。

 社会人になった今でも楕円球のチャレンジを続けることには、こんな思いを語っている。「大学時代は、聞こえない世界(の選手)でも出来るんだという証明や、自分と家族のために、こういう(健常者の)世界で頑張ろうとプレーしていました。でも、手話だけ使ってやるのも楽しいと思っていて、デフラグビーで世界一という目標を持って仲間とプレーすることを楽しんでいます」。早稲田時代とは異なる意義と楽しさを感じている岸野だが、来年の世界大会で活躍して、翌2027年に行われる男子15人制のワールドカップに挑む齋藤にもエールを贈りたいところだ。

 練習では群を抜いたパススキル、俊敏なランが光る小林建太は、近畿大ラグビー部でSHとして公式戦にも出場した実績の持ち主だ。3歳からラグビーを始め、東大阪ジュニア、近大附属高、近畿大でプレー。4年の時は、チームが9年ぶりの大学選手権出場を果たしている。高いレベルでラグビーを続けてきた小林にとっては、デフラグビーでプレーすることに当初は抵抗があったという。

「最初は正直やりたくなかった。近畿大のようなレベルの高い選手ばかりだけじゃなく、このチームだと経験の浅い選手もいたりして、そこに合わせるのも結構難しい。でも、コミュニケーションをとってやるべきことが決まれば、プレー自体は皆しっかり力を合わせて出来るんです。そういう面白さに気付けた部分もあります」

 練習では、1つのプレーが終わる度に選手と話し合う姿が印象的だったが、健常者チームからデフラグビーに来て、コミュニケーションが更に重要になったことも影響しているという。

「いままでずっと健常者の中でやってきて、当たり前だったことがデフラグビーでは通じないこともある。わからないままでやってしまうと、やはり試合で上手くいかなかったりするので、しつこいくらい分かりやすく、お互いが理解した状態でラグビーをすることを常に心掛けています」

 近畿大という大学トップレベルのラグビーでも培われたコミュニケーションの取り方、ノウハウをデフラグビー代表でも落とし込むことが出来れば、柴谷も重視するチーム内の結束力、組織としての成熟も増していくはずだ。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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