リーグワン覇権から3季遠ざかる名門 新HCは異色の経歴「ラグビーに魔法はない」託された復権への道――埼玉WK・金沢篤HC

就任直後に感じていた3文字「ここに来た時、最初に…」
10年を超える時間軸で国内最強を守り続けてきたこのチームの強さを象徴するのが、堅い防御で相手の攻撃を封じながら、チャンスを掴めば一気にインゴールを陥れるスタイルだ。今でもどの対戦相手も警戒しているのだが、BKコーチという現場(選手)に最も近い目線でワイルドナイツを6シーズン見続けてきた男は、スタイルを継続しながらも、どこかに「安全」に試合を運ぼうという守りの姿勢がチームに芽生えていると感じている。
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勝者としての伝統を築いてきた、一瞬の相手の隙を一気に着くようなスタイルをどこまで極めることが出来るかが注目される新シーズンになるが、BKコーチとして現場で見続けてきたこのチームの強さをこう明言する。
「ここに来た時、最初に感じたこと。それは主体性です」
日本ラグビーのルーツ校・慶大を始め、NTTコム、東京ガスなどでコーチ経験を持つ金沢だが、就任直後に感じていたのはこの3文字だった。
「オンフィールド、オフフィールド両方ですが、すごく主体性を持った選手が集まっていて、能動的に動いている。それが凄いラグビーなんだというよりは、パナソニックワイルドナイツというチームの強みだなと思っていて、ここは絶対にぶらさないようにしたいですね。このチームに来て一番リスペクトしている部分ですから」
どのチームでも個別差はあっても「主体性」は不可欠な要素ではあるが、ワイルドナイツでは2年、3年で培われたものではない。主将、監督、GMなどを歴任した飯島均シニアGMを始め大東文化大黄金時代のOBがもたらした、セオリーに囚われず、奔放ながら合理的なラグビーや、現役の稲垣啓太まで続く榎本淳平、三宅敬、霜村誠一といった関東学院大出身者の自由の中に自分たち自身で規律を創り出すカルチャー、それらを昨季引退した堀江翔太らが培ってきた。指導陣からの教えと同時に、選手が納得いくまで考え、自分たちの責任において戦い、チームを動かしていくのがワイルドナイツの流儀だ。
神戸製鋼、東芝府中らに屈してシルバーコレクターと呼ばれた時代から、国内最強を誇るまで育まれ、脈々と受け継がれてきた財産でもあるラグビースタイル、そして主体性に、新HCがどのような味付けを施し、王座奪還に挑むのか。
「僕自身はラグビーに魔法みたいなものはないと思っています。当然、ゲームによって作戦というのはありますけれど、今のワイルドナイツは大きなベースとなる所は変える必要はないと思っています。ベーシックなところを突き詰めて、ディテールに拘ることが大切で、それは例えばプレー(ラン)の加速であったり、自分たちはアウェアネスと言っていますが、しっかりと前を見ることです。そういうディテールをもう一回しっかりと突き詰めてベースを上げていきたい」
伝統のスタイルを貫きながら、どこまでディテールを突き詰めていけるのか――。新たな指揮官の下で、野武士が捲土重来の狼煙を上げる。
(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)
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