井上尚弥が小さく握った右拳、泣いた代役挑戦者 敬意で繋がった2人が互いに背負ったもの
ボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)が25日、3度目の4団体防衛成功から一夜明け、神奈川・横浜市内の所属ジムで会見した。前夜は東京・有明アリーナでWBO11位キム・イェジュン(韓国)に4回2分25秒KO勝ち。1か月延期と対戦相手変更が続いた異例の興行を終えた。大きな実力差がありながら、戦前の予想以上に熱を生んだ一戦。互いに背負うものがあり、勝利を目指したからこそスポーツの魅力が生まれた試合だった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

異例調整を強いられた井上尚弥が告白「弱音を吐いたら負け。絶対に吐かない」
ボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)が25日、3度目の4団体防衛成功から一夜明け、神奈川・横浜市内の所属ジムで会見した。前夜は東京・有明アリーナでWBO11位キム・イェジュン(韓国)に4回2分25秒KO勝ち。1か月延期と対戦相手変更が続いた異例の興行を終えた。大きな実力差がありながら、戦前の予想以上に熱を生んだ一戦。互いに背負うものがあり、勝利を目指したからこそスポーツの魅力が生まれた試合だった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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小さく揺れた拳に心労が詰まっていた。
衝撃の4回KO。大歓声の中心で、井上は右拳を胸の高さで握った。直後に左も小刻みに揺らす。喜びと安堵が入り混じった控えめのガッツポーズ。延期、相手変更とよもやの流れに、試合直前まで空席を覚悟していた。
「肉体的ではなく、精神的に正直きつかった」
昨年9月に戦ったTJ・ドヘニーは消極的な戦い方。ボディーを浴びてノロノロと膝をつき、あっさりとTKOが決まった。「やっていてつまらない」。井上は表情を崩さず、拳を掲げることもなかった。
過去にもガッツポーズが出なかった試合がある。当日までの背景、相手の姿勢、リング上での心の燃え方にも差があるのだろう。今回は明らかに格下とされた代役を当たり前のように倒しても、自然と飛び出した。
喜びを膨らませたのは初体験の調整期間。12月は試合10日前に1か月の延期は決まり、終盤に入っていた減量が仕切り直しに。大橋会長が「心も微動だにしない」と語る通り、貫いたのは試合に全力で集中すること。
「弱音を吐いたら負けじゃないですか。まずはプロとしてやるべきことをやり遂げるのが仕事。弱音は絶対に吐かない」
いつも試合1か月前から本格的な減量に入り、心と体を研ぎ澄ませていく。今回は2か月も気を張っていた。だから、勝利直後に疲労がのしかかった。「普段なら一夜明けた後にトレーニングをしたいという気持ちになるけど、今はしたくない。それくらい張り詰めていた。ドッと疲れが来ました」
ガッツポーズができた他の理由には、無事に1万5000人を沸かせたことにある。それは挑戦者のおかげでもあった。