[THE ANSWER] スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト

中3平均身長166cmで世界に突進した田中史朗 武器はタックル、W杯で奇跡呼んだ恐怖を超越した勇気

ラグビー日本代表SHとして75キャップを誇る田中史朗(NECグリーンロケッツ東葛)の引退会見が24日に行われた。ラグビー選手では小兵の身長166cm、体重75kgのサイズながら、2015年ワールドカップ(W杯)イングランド大会の南アフリカ代表撃破、そして19年日本大会でのベスト8進出と日本代表の背番号9として新たな歴史を築いてきた。中学3年生の平均身長に近い小さな体のどこに世界で渡り合うラグビープレーヤーとしての資質が秘められていたのか。ジャパンの“小さな巨人”の栄光の足跡とともに考える。(文=吉田 宏)

166センチの小さな体で世界と渡り合い、戦い続けた田中史朗【写真:Getty Images】
166センチの小さな体で世界と渡り合い、戦い続けた田中史朗【写真:Getty Images】

今季限りで引退表明した“小さな巨人”の栄光の足跡

 ラグビー日本代表SHとして75キャップを誇る田中史朗(NECグリーンロケッツ東葛)の引退会見が24日に行われた。ラグビー選手では小兵の身長166cm、体重75kgのサイズながら、2015年ワールドカップ(W杯)イングランド大会の南アフリカ代表撃破、そして19年日本大会でのベスト8進出と日本代表の背番号9として新たな歴史を築いてきた。中学3年生の平均身長に近い小さな体のどこに世界で渡り合うラグビープレーヤーとしての資質が秘められていたのか。ジャパンの“小さな巨人”の栄光の足跡とともに考える。(文=吉田 宏)

【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら

 ◇ ◇ ◇

 愛称は“フミ”。多くのファン、選手から愛されてきた9番が、今季限りでの現役引退を表明した。会見が行われたのは新宿・ヒルトン東京。ラグビー選手個人の会見としては異例のゴージャスな会場となったが、故郷の京都でも、所属チームの拠点の千葉・東葛エリアでもなく日本代表時代のチーム宿舎としても馴染みのある場所を花道に選んだ。

「私、田中史朗は、今シーズンの終了を持ちまして現役を引退することを決めましたので、皆さまにご報告させていただきます。17年間という長い現役生活でしたが、最高に幸せな時間でした。この小さな体でここまでプレーできたこと、日本代表としてW杯に出て新しい日本の歴史を築けたことは私の誇りです。沢山のチームメート、チーム関係者、メディアの方々、そしてファンの皆様、なにより家族のサポートがあって、ここまで続けて来られました。本当に感謝しています」

 涙をこらえるように感謝の思いを口にした39歳は、紛れもなく桜のジャージーの歴史に名を残した9番だ。初キャップは埼玉パナソニックワイルドナイツの前身、三洋電機2シーズン目の2008年だが、その名は今は無き京都・伏見工高時代から知れ渡っていた。

「伏工にすごいSHがいる」

 そんな声が関東にも届いていた。故平尾誠二さんをはじめ多くの名選手を輩出した伏見工高から京都産業大学と、学生時代は関西でのプレーが続いたが、いがぐり頭に小学生のような童顔ながら、見た目とはかけ離れたえげつないタックルで注目されてきた。このポジョンの資質でもある負けん気の強さがプレーに滲む9番だが、パスワークも当時の学生レベルでは群を抜いていた。

 そんな小さな9番が「いいプレーヤー」だけに止まらなかったのは、自分を成長させようというポジティブな欲深さだ。京都産業大学時代には単身ニュージーランド(NZ)・オークランドに留学。スキルと同時に、相手に名前負けしない度胸や、チャンスを自分から掴みに行くトップアスリートの貪欲さも身に着けた。三洋電機時入団後の2013年シーズンにはオタゴ(行政区)代表が母体のハイランダーズ入りして、日本選手として史上初のスーパーラグビープレーヤーとなった。

 当時のハイランダーズには、現在トヨタヴェルブリッツでプレーするNZ代表125キャップのアーロン・スミスがSHに君臨していたため、出場の大半はベンチスタートという境遇だった。それでもチームメート、地元ファンから「Fumi」と呼ばれ愛されたのは、伏見工時代と変わらないサイズの差をものともしない攻撃的なタックルのため。タックルと勇気に満ちたプレーが尊敬されるのは、目の肥えたファンばかりのラグビー王国をはじめ世界共通の掟だ。

1 2 3

吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

W-ANS ACADEMY
ポカリスエット ゼリー|ポカリスエット公式サイト|大塚製薬
DAZN
スマートコーチは、専門コーチとネットでつながり、動画の送りあいで上達を目指す新しい形のオンラインレッスンプラットフォーム
THE ANSWER的「国際女性ウィーク」
UNIVAS
N-FADP
#青春のアザーカット
One Rugby関連記事へ
THE ANSWER 取材記者・WEBアシスタント募集