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高い選考基準を突破した池江璃花子 成長は驚異的、記者に見えた“限界”破った底知れぬ凄さ

スタートが激変、タイムの伸びも驚異的

 明らかに変わったのは、スタートだ。復帰後は筋力の低下なのか入水直後のドルフィンキックに力がなく、出遅れることが多かった。それが、今回は激変した。スタートからの浮き上がりで先頭争いをしていた。

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 決勝レースの50メートル折り返しは、26.35秒でトップ。昨年の日本選手権で57秒68の復帰後ベストを出した時は27.22秒だから、0.87秒も速い。復帰後は体力への不安から無意識のうちに前半を抑えていたのだろうが、スタートの改善で無理なく積極的にいけた。前日の準決勝では前半50メートルを26.30秒で入り、57秒03と復帰後のベストを大幅に更新。本人が「泳ぐのが楽しい」というように、その伸びは驚異的だ。

 もっとも、世界で戦うのは、まだ足りていない。今のままでも56秒台は出そうだが、それでは決勝進出がやっと。21年の東京五輪では4位までが55秒台。メダルを争うには、最低でも18年に出した自己ベスト56秒08を切るようなタイムが必要になる。とてつもなく高いハードルだ。

 それでも、周囲の想像を超える結果を残してきたのが池江。病気からの早期復帰、東京五輪出場、今回の派遣標準記録突破……。病気後だけではない。中学生で日本代表入りしてから16年リオデジャネイロ五輪、18年アジア大会……常に周囲の期待にこたえ、それを超えてきた。

 パリ五輪開幕まで、あと4か月。どこまで成長できるのか。「病気を克服した池江に過度な期待は酷」という声もあるが、注目され、期待されることを嫌がらず、逆に好物としてエネルギーにするのが池江の強さでもある。柔道の谷亮子、レスリングの吉田沙保里……実力だけでなく、人気もあった五輪のスーパースターは、みなそうだった。

 日本水泳連盟の厳しい選考基準は「五輪に出たい」選手ではなく「五輪で勝ちたい」選手を選ぶためのもの。池江も出場を決めただけで満足はしていないはずだ。リオデジャネイロ五輪の5位を上回るメダル獲得。厳しいと思えば思うほど「もしかしたら」と思わせてくれるのが、池江の底知れぬすごさでもある。

(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)

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荻島 弘一

1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。

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