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元野球部も戦った花園初の合同チーム 英断の裏で…15人必要な高校ラグビーの部員不足という深刻な病根

あくまで合同チームはシーズン毎の高校生を救う緊急措置に過ぎない

 日本代表で名CTBとして活躍した朽木英二、トヨタ自動車の中心選手だった泰博両氏を兄に持つ指揮官から話を聞く前には、関係者、メディアから「あれは合同じゃない」「特別にね」と若干ネガティブなニュアンスを耳にした。だが、実際に新チームが動き出した時点では15人に満たなかった若狭東が、新年度以降に幸運にも入部者がいただけのことだ。確かに部員が15人に満たずに公式戦辞退が確定しているチームではなくなかったが、選手の怪我や病気でいつ試合が出来なくなるかという不安は、部員不足に悩むどのチームとも変わらない。

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 昨年2月から合同チームに加わった当時は、敦賀工の選手は浜野主将1人だった。高校1年までは野球部。2年の途中からラグビーに転向したばかりだが、若狭東の部員たちは数か月であっても共に楕円球を追った仲間が花園挑戦どころか再び試合すら出来なくなるという現実を受け入れることは出来なかった。

 今回の「合同」での出場で、記録上は若狭東の連続出場は7大会で一度途切れることになるという。それを承知の上で「合同」を選んだ朽木監督の言葉の中に貫かれているのは「いずれのチームの部員であれ、子供たちにラグビーを、試合をさせてあげたい」というシンプルだが揺るぎない一途な思いだった。

 その一方で、若狭東の3年生にも“部外者”を受け入れる土壌があったと同監督は指摘する。

「今年の3年生だからこそ(合同チームが)出来たのかなと思います。この学年は最初は5人しかいなかった。1つ上の学年は13人いて、ライバルの若狭高は同学年が11人いた。なんとか仲間を集めようとしていたのに、なかなか集まらないところに、敦賀工の選手が入って来てくれたので、すごくウエルカムな雰囲気だったと思います。敦賀工の選手が入ってきた時も、嫌な雰囲気ならそれを感じたと思うが、居心地がよかったと思うんです。ウチの選手たちもそんなに能力が高くなくても、仲間に対して温かいし、しんどい練習も頑張ろうという空気感を持った子たちなんです」

 先にも触れたように、部員不足に悩むのは敦賀工も若狭東も変わらない。若泉主将は合同チームとしての挑戦を「一緒にできて良かった」と話しているが、部員不足に苦しんできた学年だったからこそ、比較的スムーズに他校の選手を受け入れることが出来たのは幸運だった。

 個々の選手たち。特にラグビーが出来なくなる境遇に置かれた部員たちにとっては救世主のような合同チームの容認だが、勘違いしてはいけないのは、この制度が高校ラグビーの深刻な部員不足の根源的な解決には繋がらないという現実だ。同志社香里(大阪)を20年以上率いて、高校日本代表監督も務めた清鶴敏也監督は、現状をこう指摘する。

「合同チームは良いことです。それで花園にも出られたのはすごくハッピーなことだが、競技人口の解決策ではない。大阪でも合同チームの合計人数などはルール化していますが、各高校指導者には最終目標はあくまでも単独で15人のチームを作るようにと話しています。これが大事なことだと思います。中には合同チームでいいという先生方もいるかもしれない。でも、合同を認めているのは、最終的には15人のチームを作ろうという思いが根底にある。最終目標ではなくプロセスと考えてほしい」

 合同チームは、間違いなく現在の高校ラグビー界に横たわる深刻な問題への対策として評価出来る。だが、それは今年度高校に在学する選手たちに、試合をさせるための助け舟であり、そのシーズン毎の高校生を救う緊急措置に過ぎないと捉えるのが適当だろう。

 花園出場校(51)よりも遥かに多い全国の少数部員のラグビー部が、15人に満たなければ合同チーム結成と割り切ってしまえば、弊害も起こりえる。ちなみに今年度の都道府県予選に出場した合同チームは95チーム。昨年度から3増だが、毎年度数チーム、十数チームの増加が続いている。多くのラグビー部は、長年に渡り部員確保のための涙ぐましい勧誘活動を続けてきた。部員や監督が新入生のラグビー経験者を探し、経験者がいなければ体の大きな、背の高い、足の速い生徒を見つけ、時には2年、3年生ですら声を掛ける。こんな末端での地道な活動が、この国の競技人口を支えてきた。もし「合同」OKという認識が、このような毎年の努力を減らしてしまえば、高校生の競技人口を減らしてしまうことにも成り兼ねないリスクさえある。合同チームは、「部員不足」という痛みを一時的に和らげることは出来るが、根本的な治療薬ではないことはしっかり認識するべきだろう。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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