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陸上を楽しむなんてとんでもない 田中希実が憧れる作家・佐藤さとるの「最高の遊び」【田中希実の考えごと】

陸上女子中長距離の田中希実(New Balance)は複数種目で日本記録を持つトップランナーである一方、スポーツ界屈指の読書家としても知られる。達観した思考も魅力的な24歳の彼女は今、何を想い、勝負の世界を生きているのか。「THE ANSWER」では、陸上の話はもちろん、日常の出来事や感性を自らの筆で綴る特別コラム「田中希実の考えごと」を配信する。

8月のブダペスト世界陸上でスタートを切る田中希実(中央)【写真:奥井隆史】
8月のブダペスト世界陸上でスタートを切る田中希実(中央)【写真:奥井隆史】

本人執筆の連載「田中希実の考えごと」、第4回「最高の遊びへの憧れ」

 陸上女子中長距離の田中希実(New Balance)は複数種目で日本記録を持つトップランナーである一方、スポーツ界屈指の読書家としても知られる。達観した思考も魅力的な24歳の彼女は今、何を想い、勝負の世界を生きているのか。「THE ANSWER」では、陸上の話はもちろん、日常の出来事や感性を自らの筆で綴る特別コラム「田中希実の考えごと」を配信する。

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 長年の日記によって培われた文章力を駆使する不定期連載。第4回は「最高の遊びへの憧れ」をしたためた。プライドさえ持つほど、惹きつけられるファンタジーの世界。遊びが語源のスポーツも、非日常へ逃避するという意味で共通点がある。だが、実際は競技者として苦しみを味わう日々。そんなある時、作家・佐藤さとるのメモ書きに出会い、この苦しみに変化が生まれた。

 ◇ ◇ ◇

 ある日私に、とある文芸誌のコラムを書いて欲しいという依頼が舞い込んだ。私は水を得た魚のようになって、大好きな作家、佐藤さとるさんに多分に感化されたファンタジー論を述べたてた。

 ファンタジーはよく児童文学に分類されるものの、決して子供騙しではない。

 空想を絵空事に終わらせず、現実世界で手に取れるようなものにしたい、という作者の情熱の結晶なのだ。そうして生まれたファンタジーは、本物より真実であるとさえ言い切れる。このようなことを伝えるべく、そのコラムでは躍起になっている。

 どんなファンタジーも、最初から子供を対象として書き始めたものでない限り、児童文学から独立した文学作品と取れる。

 私が児童文学好きを口にする時、どこかで自分を卑下してしまうのは、「児童文学=子供のための本」と思う人が大多数だろうと考えてしまうからだ。そして「児童文学=子供のための本」だと説明することを、自分自身にも許してしまうからだ。ファンタジーが好きだと口にすることがあまりないのは、日本では特に、ファンタジーといえば突飛な空想物語、メルヘンチックなもの、と捉えられてしまうと直感するからだ。

 どうして私は、こんなにもファンタジーに惹きつけられるのだろう。しかも、作家でもないくせに、こんなにもファンタジーにプライドを持っているのだろう。

 佐藤さとるさんは、ファンタジーを書く作業のことを、「最高の遊び」と表現している。しかし、遊びをとことん楽しむには、それ相応の苦しみが不可欠で、空想を手に取れるようになるまで、ペンを片手に苦しみ抜く必要がある。

 遊びと言えば、スポーツも、もともとは遊びであり、今でもお遊びと取られている節がある。スポーツの語源自体がdeportare、日常から非日常へと逃避することを表している。

 しかしながら、これほど苦しいことはない。私ははっきりした夢や目標もないままに、心身を削って走っている。楽しむなんてとんでもない。

 そして私はいつも、苦心惨憺(くしんさんたん)書き上げたファンタジーを、こんなの夢物語だと、作者自身が笑い飛ばすようなことばかりやっている。ピーターパン曰く、楽しいことを考えたら空を飛べるらしい。バカな、人が空を飛べるわけがない。オリンピックでよく見る人間離れした選手と同じように、人が素晴らしい速さで走れるわけだって、ない。

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田中 希実

 1999年9月4日、兵庫・小野市生まれ。ランニングイベントの企画・運営をする父、市民ランナーの母に影響を受け、幼い頃から走ることが身近にある環境で育った。中学から本格的に陸上を始め、兵庫・西脇工高に進学。同志社大を経て、豊田自動織機へ。2023年4月からNew Balance所属となり、プロ転向した。東京五輪は1500メートルで日本人初の8位入賞するなど、複数種目で日本記録を保持する。趣味は読書。好きな本のジャンルは児童文学。とりわけ現実世界に不思議が入り混じった「エブリデイ・マジック」が大好物。公式インスタグラムは「@nozomi_tanaka_official

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