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型に“はまらない”のは悪か 平凡なしつけでは磨かれなかったロナウジーニョの天才性

メッシの爆発的な成長を導いた慈愛

 しかし、ロナウジーニョほど愛された選手は少ないだろう。人との関係に垣根を作らず、いつもオープンで、楽しさや欲に対して素直だった。

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「ロニーはいつも笑っていて、太陽みたいなやつだったよ」

 バルサの下部組織からトップに昇格し、ロナウジーニョとチームメートだったイタリア代表(ブラジルから帰化)のチアゴ・モッタは、そう説明していた。

「周りにいる家族や友人が楽しそうにしていると、彼自身も元気が湧いてくるのだろう。サッカーをしている時も同じで、周りを楽しませているうちに、彼も楽しそうになる。どこまでも無垢で、優しさのある男だよ」

 ロナウジーニョはナイトクラブで過ごしたり、お酒におぼれたり、1人のプロサッカー選手としては品行方正ではなかった。その一方、行動で徳の高さを示したこともある。

 ブラジル時代、ジュニアユース時代からの親友が上手くキャリアアップできず、たらいまわしの上、大怪我を負うと、パリの名医に診察させるために招き寄せ、フランス国内のクラブに「いい選手だから」と片っ端から推薦した。かつての仲間を放っておけなかった。結局、契約には至らなかったが、自宅で家に置いて仕事を与えた。

 その慈愛も、糾弾の対象になるのか?

 プロは生き馬の目を抜く、厳しい世界である。生き残りを懸けた競争は凄まじい。競争関係は同じチームであってもあるものだが、ロナウジーニョはすべてを見せ、分け与えた。どんな技術も指南し、同じポジションの選手がいいプレーができるパスを送った。そこまで“奉仕”した選手は、決して多くはない。

「ロニーにはずっと感謝している」

 あのリオネル・メッシも語るほどで、ロナウジーニョのおかげで爆発的な成長を遂げたと言えるだろう。

 ロナウジーニョは何にも縛られず、思うままに生きることによって、栄光を勝ち取っている。「人に迷惑をかけず、いい子にしなさい」。そんな平凡なしつけの中で、彼は生まれていない。

 人生の中で、ロナウジーニョは何が大事かは学び取ってきた。

 彼の父は、プロ選手として名声を得られなくても、清掃員として家族を養っている。その父が病気で早くに亡くなった後、兄が家計を支えた。イタリアのクラブからの一か八かのオファーよりも、安定した家計のために国内のクラブとの長期契約にサインしたという。

 人生の不条理を経験したからこそ、そのプレーは人間味も出て、心を揺さぶったのかもしれない。

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小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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