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日本陸上界初の画期的試み 奈良に生まれた「クラブ型実業団チーム」の実態とその未来

所属2年目の平田由佳は地域に根差した活動に手応え【写真:NARA-Xアスリーツ】
所属2年目の平田由佳は地域に根差した活動に手応え【写真:NARA-Xアスリーツ】

「クラブ型実業団」形態の2つのメリットとは

 この形態をとるメリットは2つある。

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 1つは「地域とのつながり」。2015年の調査で全国2位となった高い県外就業率は、奈良県内の企業が持つ課題の一つだ。雇用に悩みを抱える企業にとって「NARA-X」の選手たちを受け入れて雇用することは、単純な広告効果に留まらない大きなメリットとなる。また地元のイベントに積極的にするなど、Jリーグを参考にした地域密着活動により、徐々にスポンサー企業も増加。クラブが事業の一つとして担う地域情報サイト運営もその例だ。男子選手や監督自身が掲載店舗へ赴いて取材を行うことで、クラブと地域の関係づくりを行っている。

 大阪出身で、所属2年目になる平田由佳は「奈良の市民ランナーの方と一緒に練習もするので、仲良くなりました。(働いている企業の)社長をはじめ、職場の方にも応援してもらっているし、やりがいを感じます」と地域に根差した活動に手応えを感じている。

 もう1つは「生涯スポーツ」として競技に向き合えるという側面だ。陸上の女性アスリートが「結婚・出産」といったライフイベントにより競技から退く例は、枚挙に暇がない。駅伝チームを持つ実業団であればなおさらで、厳しいチーム内競争や契約との狭間で悩む女性アスリートは少なくない。しかし「NARA-X」は、クラブ型であるため熾烈な競争や「結婚・出産」による引退勧告などはなく、本人が望むなら生涯クラブに所属することが可能だ。またチーム外にフルタイムでの仕事を持っているため、引退後のセカンドキャリアも確保されている。

立ち上がりから所属する大井千鶴【写真:NARA-Xアスリーツ】
立ち上がりから所属する大井千鶴【写真:NARA-Xアスリーツ】

 もちろんメリットばかりではない。フルタイム勤務を行うことは、練習時間が限られる上に、身体的負担も大きい。2017年の「NARA-X」立ち上げ時から所属する大井千鶴は「(加入当初は)なかなか生活リズムに馴染めず辛かった。一社員として残業もある中で、学生時代と比べると圧倒的に練習時間を取れない。一方でスポンサーに応援されているクラブの一員として結果を出さないといけないプレッシャーもあった」と当時を振り返る。

 純粋な競技環境としては不利なことしかないように見えるが、苦しい生活の中でも、様々な気づきが彼女を成長させていった。

「まずアスリートというより社会人として成長できた。お金をもらうことの責任感や、会社の理解の上で競技ができていることを知ることがモチベーションに繋がりました」

 競技面でも変化があった。がむしゃらに量と時間をかけるだけだった学生時代と比べて、一つ一つの練習の質にこだわるようになり、リカバリーの重要性にも気づいた。

「実業団の選手には練習量では敵いません。だから自分の体の状態をしっかり見極めて、無理をしない。調子が悪ければスパッと練習を切り上げる。あとは睡眠や食事に徹底的にこだわる」

 そういった工夫が、フルマラソンの自己ベスト更新や今年の大阪国際女子マラソン20位など、徐々に結果にも表れるようになってきた。

「社会人を経験し、いろんな角度から競技を見ることで、オンオフの切り替え方だったり、モチベーションの持ち方だったりに活かせる」と大歳監督が話すように、従来の実業団選手とは違ったアプローチでの、競技レベル向上に挑んでいる。

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