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中国が見逃している「サッカーの本質」 エリート選手に欠落する“重要な資質”とは

バルサは集団戦を至高の域まで昇華

 中国は、ペケルマンの言う5番目の大事なポイントを完全に見逃している。エリート主義はサッカーの本質と相反する。また、どれだけ走行距離を伸ばし、スプリント回数を増やしても、個人の筋力や走力には限界がある。

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 精神的に未熟で、体力だけが自慢の選手たちは、プレーが上手くいかないと、不必要にイライラを募らせる。相手を傷つけるような暴力行為にまで発展。コレクティブなプレーの感覚が決定的に欠けているのだ。

 このような強化では、たとえ100年経っても、中国サッカーに明るい未来は来ない。国内リーグでは世界的名将も雇ってきたが、成人後では基本的指導は遅過ぎる。育成の時点で、集団における役割を自覚させ、それが勝利につながることだと、学習させる必要があるのだ。

 翻って、FCバルセロナ(バルサ)が世界を謳歌したのは、まさに集団戦を至高の域まで昇華させたからだろう。バルサは下部組織ラ・マシアから一貫したサッカー哲学で育てられる。

「ボールを持っていれば失点しない」

 そこにプレーの神髄はあるが、個人と集団の融合によってボールを持ち、失わない回路が張り巡らされているのだ。

 おかげで、バルサはプレーに全体としてオートマティズムがある。1人の選手がボールを受け、ポジションを取ったら、他の選手がいるべき場所があり、走るコースがあり、出すべきボールのスピードとタイミングがある。それを目もくらむスピードでやってのける。ほとんど阿吽の呼吸だ。

 その集団戦こそ、世界を制する武器になった。アンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)の体は、中国人の体のように逞しくはない。しかしボールを受け、弾き、再び受けるのに、たいそうな筋肉をつける必要はないのだ。

 かつてジョゼップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ監督)は、選手時代をこう振り返っていた。

「自分はラ・マシア時代からトップチームに上がる時、チームを機能させることだけを(ヨハン・)クライフに叩き込まれた。とにかくダイレクトパスを磨き、ポジショニングを学習し、試合を見る目を養うこと。それは今のラ・マシアでも貫徹されている。今の選手はそれだけでは足りず、ゴールやプレー強度などさらに多くの仕事が求められるが……」

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小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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