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「コラッ、マツ!」 松田直樹を何度も怒り、それでも愛した前橋育英の恩師の哀惜

アトランタ五輪壮行会で握手した山田耕介監督(左)と松田さん【写真:前橋育英提供】
アトランタ五輪壮行会で握手した山田耕介監督(左)と松田さん【写真:前橋育英提供】

「先生、自分が本気でやったら周りをケガさせてしまいます」

 あれは高校2、3年のどちらだったか。

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 気持ちが入っていない練習態度だったから、怒ったことがあった。でもマツのほうから「先生、自分が本気でやったら周りをケガさせてしまいます」と言われたときは、そうだったのかと驚いた。確かに同年代とやると、相手が吹っ飛んでしまうこともあった。普段の練習で思い切りやれていないと分かって、浦和レッズ、横浜マリノス、横浜フリューゲルスといったJリーグクラブに連絡して、トレーニングマッチを組ませてもらった。

 イキイキと伸び伸びとプレーしていたよな。

 相手が強くなればなるほど、自分のなかにワクワク感があったんじゃないかな。それが闘争心に変わって、凄いパワーを発揮していく感じがあった。

 だけど冬の全国高校サッカー選手権大会では勝てなかった。

 マツが高2のとき。1回戦で足首をケガして、前年にも負けた国見と戦うときにいなかった。「エースの船越優蔵をマツが止めるんだぞ」と伝えていたのに。結局また負けてしまって、悔しかった思い出がある。

 卒業して横浜マリノスに加入してからはしばらく連絡が来なかったけど、よく覚えているのが1996年のアトランタ五輪前に、高校で壮行会をやったときのこと。案の定、スーツを持って返らず、お母さんが事前に用意してくれていたよな。でも革靴のことまでは考えていなかった。マツに足のサイズを聞いたら29センチって言うから、誰も持ってない。県庁にも行かなきゃいけなかったし、急いで靴を買いに行ったよな。

 フィリップ・トルシエさんが日本代表監督のときに福島のJヴィレッジで代表キャンプを張っていて、自分もナショナルトレセンで行っていたからたまたまマツと会ったら、いきなり「先生、聞いてください! 今日の練習でこんなこと言われたんです。納得できません!」って血相を変えて、まくし立てて。地面にトレーニング内容まで書いて(笑)

 マツ、お前の気持ちも分かるけど、ケンカはやめとけ。確かそう言った記憶がある。気になって午後の練習を見に行ったら、外を走らされていた。あーあ、と思ったよ。

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二宮 寿朗

1972年生まれ、愛媛県出身。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。2006年に退社後、「Number」編集部を経て独立した。サッカーをはじめ格闘技やボクシング、ラグビーなどを追い、インタビューでは取材対象者と信頼関係を築きながら内面に鋭く迫る。著書に『松田直樹を忘れない』(三栄書房)、『中村俊輔 サッカー覚書』(文藝春秋、共著)、『鉄人の思考法~1980年生まれ戦い続けるアスリート』(集英社)、『ベイスターズ再建録』(双葉社)などがある。

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