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15人制より番狂わせの多い7人制ラグビー 男子日本、メダル獲得の可能性を徹底解剖

日本のアドバンテージは「対戦順」と「地の利」

【地の利】メラネシアの島国フィジーは、年間平均気温25度の常夏の国。暑さには馴れている印象があるが、日本優位と期待したい。

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 取材で数回フィジーに滞在したが、小さな島国特有の湿気はあるものの、常に海風が吹き付けるため過ごし易さがある。日本のような強烈な日差しとまとわりつく湿気、そして周囲をコンクリートに囲まれた環境が生み出す放射熱は、母国では経験できないものだ。

 そして、日本では2015年を最後に国際大会は行われていない。フィジーをはじめ世界の列強が、東京の過酷な夏のコンディションを経験していないぶん、ホームタウンアドバンテージがある。アクロバティックなハンドリングが持ち味のフィジー選手にとっては、汗でボールがスリッピーになりがちな状況もリスクは十分にあるだろう。英国、カナダという英連邦系のチームも高温多湿の環境には苦しむはずだ。

 日本代表は、五輪が近づく6、7月に北海道・定山渓で6日間の強化合宿を行っている。五輪本番の暑さ対策のためには向いていない環境とも思われるが、岩渕健輔ヘッドコーチ(HC)は「2018年、19年の夏にも色々な対策をしてきた。オリンピックと同じタイミングでの試合も会場の東京スタジアムで行ってきて、ずっと暑い所でやることが得策ではないと結論づけている。チームとして固まれる、周りから雑音のない中で集中してやって、暑さに関しては3週間前からで十分」と説明する。

 合宿ではGPSの数値、体重の増減、食事の接種状況、発汗量に睡眠量など細部までデータを取り、モニタリングしながら選手のコンディションをチェックしてきた。暑さで消耗の激しい東京よりも練習時間を作れる北海道で、選手のポテンシャルも引き出せたはずだ。非公開での練習が多く、選手のパフォーマンスの全容は判らないが、どの対戦相手にも終盤に走り勝てる持久力アップには十分取り組んでいるのは間違いない。本番では、フィジカル面での消耗を極力抑えることができれば、終盤に運動量で相手を上回る戦い方が期待出来るだろう。

【戦力】まず、五輪代表の座を掴んだ12人を紹介しておこう

石田吉平(明治大学3年)6
加納遼大(明治安田生命ホーリーズ)22
セル・ジョセ(近鉄ライナーズ)11
☆副島亀里ララボウ・ラティアナラ(コカ・コーラレッドスパークス)34
☆トゥキリ・ロテ(近鉄ライナーズ)50
☆羽野一志(NTTコミュニケーションズシャイニングアークス)29
☆彦坂匡克(トヨタ自動車ヴェルブリッツ)22
藤田慶和(パナソニックワイルドナイツ)27
ヘンリー・ブラッキン(NTTコミュニケーションズシャイニングアークス)-
ボーク・コリン雷神(リコーブラックラムズ)-
松井千士(キヤノンイーグルス、主将)23
本村直樹(ホンダヒート)25
(☆はリオ五輪出場、末尾の数字は7人制代表キャップ数)

 6月19日に発表された五輪代表内定メンバーからは、ここまでリーダーとしてチームを牽引してきたベテランの坂井克行(豊田自動織機シャトルズ)、小澤大(トヨタ自動車ヴェルブリッツ)が外れ、合谷和弘(クボタスピアーズ)がバックアップメンバーに回った。坂井、合谷は前回五輪の中心選手でもあった。大一番の舞台では、様々な国際舞台での彼らの経験値は大きな武器になったはずだ。今回のメンバーは五輪経験者も12人中4人と決して多くはない中で、岩渕HCは「決断は難しかった」と明かしながらも敢えてポテンシャル重視での選考を決めた。この決断がどう転ぶかは結果を待つしかないが、今回のメンバーを見ると、前回大会以上に海外出身メンバーの力がカギを握ることになるだろう。

 ターゲットに据えるフィジーは、“フィジアンマジック”と呼ばれる変幻自在のステップ、ハンドリングが武器である一方で、古くから巨人国と呼ばれるように長身の大型選手が揃っている。20年前ならサイズがなくてもスピードとスキルで、コンタクトを避けて太刀打ちできた7人制だが、最先端の戦術では1対1のフィジカルコンタクトの強さ、スクラム、キックオフといったセットプレーの安定が重要なファクターになる。このエリアでは、日本生まれのメンバーだけでは苦しいのが現状だ。

 前回大会での海外出身選手は3人だったのに対して、今回は5人に増えている。フィジー出身で2大会連続の出場となるトゥキリ・ロテ、ニュージーランドで7人制代表も経験するボーク・コリン雷神、身長196センチのセル・ジョセらのフィジカルストレングスと経験値、そしてハイボールへの強さが武器になる。去年まで代表資格がなかったボーク、元7人制オーストラリア代表のヘンリー・ブラッキンをフィジーのクラブチームへ武者修行させるなど経験値を上げさせてきた岩渕HCは「厳しい環境、プレッシャー下の中でのパフォーマンスでは2人とも信頼しているし、期待している」と欠かせない戦力と評価している。

 メンバー上の不安材料を挙げると、リオ五輪で活躍した、福岡堅樹、レメキ・ロマノ・ラヴァ(NECグリーンロケッツ)のようなワンチャンスで一気にトライを取り切るフィニッシャーが不在なこと。共に大阪・常翔学園高OBの松井千士主将、7人制ではSHとFBを兼ねるスイーパーを担う石田吉平らのスピードに期待したい。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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