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“高校野球らしくない”指導でセンバツ有力 元巨人・佐藤洋監督が変えた東北高の練習風景

練習を見つめる佐藤洋監督。各選手はお気に入りのジャージやTシャツを着用していた【写真:川浪康太郎】
練習を見つめる佐藤洋監督。各選手はお気に入りのジャージやTシャツを着用していた【写真:川浪康太郎】

「掃除をする意味」を伝えて縮まった選手との距離

「丸刈りにしなくてもいい」
「練習中にユニホームを着なくてもいい」「練習中に音楽をかけてもいい」

 佐藤がこれらの新方針を打ち立てたのには理由がある。「子どもたちに野球を返す」ため。つまり「野球を選択する子どもを増やし、野球を楽しんでもらう」ためだ。

 約20年間、少年野球の指導に携わるなかで、野球を嫌いになり、野球から離れる子どもたちを見てきた。その原因は厳しすぎる練習環境や、大人の執拗なまでの介入。子どもたちを苦しめる制約を取っ払うことが、競技人口増加の一助になると佐藤は考える。

 ただ、その真意がすぐに選手たちに伝わるとは限らない。

「高校生にとって、監督交代は大きな事件。選手たちがどのように野球と向き合っているのか、何を考えているのか、どうコミュニケーションを取ろうか、というので頭がいっぱいだった」

 豊富な経験があるとはいえ、高校野球の監督業は初めて。佐藤自身も一抹の不安を抱えながら就任初日を迎えた。

 ファーストコミュニケーションの手段は、「掃除」だった。整理整頓ができておらず、荒れている寮や部室を目にした佐藤は、選手たちを集めて問いかけた。

「運動能力だけで見たら、一番強いのは仙台育英。君たちはどうやっても敵わない。でも、野球は運動能力だけじゃ決まらない。じゃあ、何が必要だと思う?」

 選手の1人が答えた。「運が必要だと思います」。

「そう、このチームは運がないと勝てないよ。運があれば育英にも100回に1回は勝てる。運を拾おう。だから掃除をしよう。勝利の女神はきれい好きなんだ」

 ただ掃除を命じるのではなく、掃除することの意味を伝えた。

 距離はすぐに縮まった。当初は佐藤の掲げる新方針に戸惑い、呆気に取られた表情を浮かべていた選手たちだが、自然と“高校野球らしくない”練習環境は当たり前のことになっていった。

 新チームで臨んだ昨秋の県大会、東北大会では早速結果が出た。県大会決勝では、佐藤が「100回に1回は勝てる」と言っていた仙台育英に勝利。東北大会準々決勝では、7回まで山形中央高の好左腕・武田陸玖投手(2年)にほぼ完璧に抑え込まれるも、8回はラッキーな安打が立て続けに飛び出し、4点を奪い逆転した。まさに、勝利の女神が微笑んだ。

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