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アジア最弱国を変えた名指導者 “日本サッカーの父”が語る「本当の価値」

クラマー氏が評価する長沼、岡野両氏、「本当の価値を知る人は意外と少ない」

 そのクラマー氏が、銅メダル獲得時の日本代表監督(長沼氏)とコーチ(岡野氏)を、ドイツの諺を引用して最大限に称賛していた。

「日本にはジーコやイビチャ・オシムなど、優秀な選手や指導者が外国からやって来たが、長沼や岡野の本当の価値を知る人は意外と少ないんじゃないかな」

 岡野氏は、クラマー氏の「日本の弟」と呼ばれるほど常に行動を共にしてきた。クラマー氏の薫陶を受けて、大きく遅れていた日本サッカー界の常識を国際基準に引き上げたが、旧い概念から抜け出せなかった当時のベテラン指導者からの風当たりは強かった。

 例えば岡野氏が、ドイツで使用されていた白黒で五角形と六角形が組み合わされたボールの導入を提案すると「サッカーボールは本場イングランドでも一色だ」と否定された。しかしやがて白黒ボールを見れば、誰もがサッカーボールだと認識するようになる。クラマー、岡野両氏は、代表指導と並行して全国各地でクリニックを開催して回ったが、あちこちで指導者たちから喧嘩腰の議論を吹っかけられたという。そんな時、クラマー氏は漏らしていた。

「シュン、オレたちは孤独だな……」

 岡野氏が説いてきた国際基準の常識は、旧態依然とした当時の日本にとっては、先取りの預言だったに違いない。そしてまだ30歳代だった長沼、岡野両氏を日本代表スタッフに強く推したのはクラマー氏だった。彼もまた優れた預言者だったということである。

【了】

加部究●文 text by Kiwamu Kabe

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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