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“過熱競争”から強さが生まれる? 米国の部活トライアウト制と日本のお受験

過熱競争で身につく子どもの強さ、一方で“燃え尽き”のデメリットも…

 日本でも、名門の国立や私立中学に合格するためには、小学校から専門の塾に通う必要がある。公立中学校の生徒でも、高校受験や、その先の大学受験を意識して、塾に行くことは当たり前のこととなっている。それと同じように、米国では、子どもが競技としてスポーツをしようとすれば、学校外で指導を受けることが一般的になっている。だから、日本の塾と同じように、スポーツの指導がビジネスとして成り立っている。大学などでは、夏休み期間は、大学寮が空いているので、そこに小中学生を宿泊させ、有料のスポーツ合宿を行っていることが多い。

 小学校低学年の最上級レベルの競技チームのトライアウトは、日本の「お受験」と似たものを感じる。子どもが小さい時から、一番上のレベルのチームに入ることにメリットを見出している保護者がいるからだ。トライアウトをパスするためには、以前から、そのチームにいる選手たちよりもうまくなければいけない。中学生や高校生になってから、すでにエリートとして何年もトレーニングを積んできている選手を蹴落とすのは簡単なことではない。小学校低学年で一番上のレベルのトライアウトにパスし、そのレベルの選手であることを維持するほうが良いという考え方である。

 子どものときから、シーズン毎のトライアウトを勝ち抜き、スポットを獲得してきたことで、心身ともに強さを身につけた人たちが米国スポーツの強さを支えているといってよいのではないか。一方で、日本のお受験と同様に過熱して、幼いときからの競争に耐えきれず燃え尽きるデメリットも指摘されている。それに、格差社会の米国では、プライベートレッスンはもちろんのこと、最上級レベルのチームでの活動は費用が高くつくことが多く、貧困家庭の子どもは、勝ち抜き競争に参加できない。
 
 日本でも誰もが名門私立中学を目指して、誰もが受験塾に通っているわけではない。それと同じように、米国でも、スポーツをする全ての子どもたちが熾烈なトライアウトを繰り返しているわけではない。競争から少し距離を置き、トライアウトのない運動部に入ったり、2軍でも良いと考えたりしている家庭も少なくない。ビデオ撮影やデータ分析員として運動部に参加している生徒もいる。トライアウトに落ちたことで、早めにスポーツに見切りをつけ、他に興味のあることを探している子どももいる。日本と比べると「みんなと同じように頑張る」という圧は少なく、それぞれの楽しみ方も、それなりに保障されているようだ。

(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)

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谷口 輝世子

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。近著に『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか――米国発スポーツ・ペアレンティングのすすめ』(生活書院)ほか、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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