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「後ろ向きに漕ぐから見えない世界にいける」 “ボートの鉄人”が高校生に贈るエール

質疑応答で交流「スポーツの楽しさは成功することがすべてではない」

 さて、高校時代を振り返った後、オンライン授業ではボード部の生徒たちから寄せられた質問に武田氏が答えるコーナーへ。テーマは「技術」「メンタル」「将来」の3つ。生徒たちから飛び出す専門的な質問には、たびたび、武田のほうが舌を巻くシーンがみられた。

――強い選手と同じレースに出ると、スタート時に、負けるのかな、負けたくないな、という気持ちで緊張し、手が震えてしまいます。

「強い人とあたれるって最高! 弱い人が強い人に勝てばヒーローになれる。挑戦者は思い切ってやることが大切。緊張する必要はないと思う。レースの前は、『これ以上、頑張らなくていいかな』ぐらいの気持ちでいいし、いつも通りにできればいい。だから、普段から(自分の)100%に近づける意識で、練習に取り組んでほしい。

 僕も、国内大会の予選でもすごく緊張するが、『いつも通りやろう』と考えることがすごく大事。ボートはアウトドアの競技。風や波、潮や海藻を感じつつやると、気分よくできる。そこを、普段から大事にしてください」

――試合中、ボートのバランスが崩れるとパニックになる。気持ちを落ち着かせて冷静になるにはどうしたらいいですか?

「(自然のなかで行う)ボートは、外的要因が大きく影響する。僕もバランスを崩すことはあるし、それによってゼロコンマ数秒差で負けたこともあれば、勝ったこともある。まずは屋外のスポーツなので、何かしら起きるであろう、という心構えで臨んでほしい。ただ、ミスしたときに立て直すことを、練習中から意識したい。練習では操作をミスすると、そこでやめてしまう人がいる。しかし、ミスからどう回復するかも練習。

 スポーツはイレギュラーなことが楽しい。失敗した瞬間は嫌な気持ちになるが、スポーツの楽しさは成功することがすべてではない。すべての失敗は成功への道。失敗経験を積み重ね、メンタルの切り替えも含めて、意識して練習していこう」

 将来については、「ボートを続けてみたいが、進路に悩んでいる」という質問が多数寄せられた。武田は自身を振り返り、「実は将来、農家になるつもりだった」と答え始めた。

「僕は農家の息子なので、愛媛大学の農学部を受験。進路には悩まなかったが、ボートが強い大学ではなかったので、正直、競技を続けるかは悩みました。ところが、合格発表の当日、(当時、合否は公開されていたため)ボート部の先輩に合格の結果を見られてしまった。向こうから歩いてくる先輩に、『武田君、ボート部入部、おめでとう!』と言われ、逃れられなかったんです(笑)。

 あとはやっぱり、ボートが楽しかった。波を感じたり、風を感じたり、前向きではなく。後ろ向きに漕ぐので、見えない世界にいけるところもいい。やればやるほど、奥深さを実感します」

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長島 恭子

編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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