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100kg超級が全滅…会場が広く見えた全日本決勝 変わる大会の価値、「優しすぎる」重量級に歯がゆさも

柔道日本一を決める全日本選手権が26日、東京・日本武道館で行われた。初優勝したのは田嶋剛希(パーク24)、準優勝は村尾三四郎(JESエレベーター)。24年世界選手権90キロ級優勝の田嶋が、昨年の同級優勝者の村尾から終了間際に技ありを奪った。100キロ超級、100キロ級と上から数えて3番目、90キロ級新旧世界王者が、体重無差別で争う大会で「真の日本一」を争った。

初優勝を果たした田嶋剛希【写真:西村尚己/アフロスポーツ】
初優勝を果たした田嶋剛希【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

全日本選手権

 柔道日本一を決める全日本選手権が26日、東京・日本武道館で行われた。初優勝したのは田嶋剛希(パーク24)、準優勝は村尾三四郎(JESエレベーター)。24年世界選手権90キロ級優勝の田嶋が、昨年の同級優勝者の村尾から終了間際に技ありを奪った。100キロ超級、100キロ級と上から数えて3番目、90キロ級新旧世界王者が、体重無差別で争う大会で「真の日本一」を争った。

 例年とは景色の違う決勝戦だった。恒例の4月29日開催が、政府の昭和100年記念式典開催のために26日に開催となったことではない。決勝の畳に上がった2人が90キロ級だったからだ。昨年は優勝した香川大吾(ALSOK)が135キロ、準優勝の原沢久喜(長府工産)が120キロ。100キロ超の選手の決勝を見慣れていると、会場が広く見えた。

 全日本選手権は重量級選手の大会だ。以前は100キロ超級や100キロ級の五輪や世界選手権代表選手の選考を行っていたように、重量級選手の勝負の場でもある。そこに、90キロ級や81キロ級、さらにこの日の永山竜樹(パーク24)や武岡毅(パーク24)のように軽量級選手が挑む。それが、見慣れた全日本選手権の光景だった。

 9連覇した山下泰裕、山下に挑み続けた斉藤仁、7度優勝の小川直也に3連覇の篠原信一、井上康生、4度優勝した鈴木桂治と王子谷剛志…。重量級選手が大会を席巻してきた。71キロ級の古賀稔彦が最軽量で決勝に進出した時も敗れた相手は100キロ超級の小川直也、78キロ級の吉田秀彦が決勝で敗れたのも100キロ超級の金野潤だった。

 決勝に100キロ超級選手がいないのは、100キロ級のウルフ・アロンが90キロ級の加藤博剛を破った19年大会以来7年ぶり。90キロより軽い階級の選手同士による決勝は現行の階級制となった1998年以降例がなく、中量級選手が活躍していた60年代、体重88キロの松阪猛が同80キロの岡野功を破った68年大会以来半世紀以上ぶりになる。

 この日、重量級選手は次々と姿を消した。香川は3回戦で、原沢も準々決勝で敗退。100キロ超級で唯一ベスト4に残った太田彪雅(旭化成)も準決勝で田嶋に敗れた。今年10月の世界選手権(バクー)100キロ超級代表の中野寛太(旭化成)は4回戦で、同団体戦代表で同級の中村雄太(旭化成)も3回戦で敗退。100キロ級代表の新井道大(東海大)は準決勝まで進んだが、村尾に一本負けした。

 男子日本代表の鈴木桂治監督は重量級選手が上位に残らなかったことを「日本では90キロ級が強いということ。あまり重く受け止めるつもりはない」とポジティブに受け止めた。確かに決勝の顔合わせは昨年の世界選手権決勝と同じ。28年ロサンゼルス五輪でも金メダルが有力で、日本の得意階級と言ってもいい。

 とはいえ、重量級は心配だ。特に100キロ超級は08年北京で石井慧が金メダルを獲得して以来、16年リオデジャネイロで原沢が銀を手にした以外五輪メダルがない。過去2大会で男子7階級中唯一メダルを逃しているのが100キロ超級。世界選手権でも22年の斉藤立の銀メダル以来、表彰台に立った選手はいない。かつての重量級王国は見る影もなくなっている。

 鈴木監督は「情けないとは思わないけれど、もっとできるよねと」と言葉を選びながら話した。自身は04年アテネ五輪100キロ超級金メダリスト、現状に憂いがないわけではないはずだ。「重量級は優しすぎる選手が多い。悪いことではないが、勝負になると…」。歯がゆさを隠すように話し「もっとやらないと」と言った。

 かつての全日本選手権は、もっと殺気立っていたように思う。斉藤は「勝ち逃げは許さない」と引退を決めて臨んだ山下を挑発したし、小川は鬼の形相で古賀を粉砕した。金野と吉田のにらみ合いには戦慄が走ったし、鈴木と井上の頂上決戦も緊張感たっぷりだった。誰もが強い想いで「天皇杯」獲得を目指していた。

 もちろん、今は代表選考も関係なく、足取りありなど独自のルールもあって、大会の価値も以前とは変わったのかもしれない。それでも「全日本」のタイトルは特別なはず。今でも五輪、世界選手権と並ぶ「3冠」という言葉は残る。優しい重量級の選手たちも「鬼」にならなければタイトルは手に入らない。

 準優勝の村尾は「2位では意味がない。全日本は必ずとらなければいけないタイトル」と言い切った。田嶋は同じ階級のライバルの出場を聞いて「自分がいない大会で勝たれたらたまらない」と急きょ出場を決め、そのライバルを倒して12年の加藤博剛以来14年ぶりの90キロ級での優勝を果たした。ともに「絶対に勝ちたい」という強い思いで重量級選手を次々と撃破した。

 毎年のように変わる上位の顔ぶれ。よく言えば「群雄割拠」なのだが「どんぐりの背比べ」にも見える。「今はなかなかタレントがいない。中野、太田、中村あたりのケツを叩いていくしかない」と鈴木監督。全日本選手権がより輝き、注目されるために、世界で勝てる100キロ超級のエースの出現が待たれる。

(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)



荻島 弘一

1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。

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