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引退後、月収15万で地獄を見た陸上選手の話「人生で初めて『明日が怖い』と思った日」【THE ANSWER Best of 2021】

“知らないことを知らなかった”自分、大切なことは「本当になりたい姿が見えているか」

――結局、いつまで仕事を続けたのでしょうか?

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「登録者の目標が月50人、月60人と増え、最終的に『月100人いきましょう』となりました。でも、あまりに疲弊していて家で休んでいて会社から電話があり、『何やってるんですか、このペースで100人いけるんですか』と言われ、腹が立って『絶対、100人いってやる』と、人脈を駆使して、かたっぱしから頭を下げて営業しまくったんです。

 そうしたら、当時、よく面倒を見てもらっていた方が大学のボート部のコーチが埼玉の戸田でやる大学対抗の試合に誘ってくれました。ボート部は各校の戸田公園に寮が密集しているので、寮をぐるぐると回ったら、月97人いったんです。とんでもない数字で、ガッツポーズしたいくらいです。その時、初めて自分によくやったと言いたくなりました。それで『97人いきました』と報告したら『そうですか、じゃあ来月を100人目指しましょう』とあっさり返されたんですよね。

 その瞬間、気持ちが完全に切れましたね。もう、ここじゃないと。自分が陸上競技で得てきた感動とは全く違うと思いました。子供に、アスリートに走りを教えて僕の経験を還元したことにより、足が速くなったと喜んでくれる。もうこれしかない、ここに行こうと思いました。それで会社に言いに行きました。

『僕はスプリントコーチで生きていきます』と。結局、9か月会社にいましたが、何のために生きていけばいいか分かりませんでした。週1度のミーティングは朝7時半に横浜のオフィスであり、都内の自宅から始発で向かう生活。そのミーティングの前夜は吐き気がして寝られず、初めて『明日が嫌だ、怖い』と思っていました。人生であの期間が一番キツかったです」

――秋本さんの経験は今、競技をしている学生アスリートにとっても大切な話ですね。競技に打ち込むあまり、よく知らないまま社会に出ることでミスマッチにつながってしまいます。

「ソクラテスの言葉に『無知の知』という言葉がありますが、物事を“知らないこと”より、自分が“知らないことを知らない”の方が良くないと思います。そもそも“知らないことを知らない”人って多いものです。知っているものの数が多いほど、その時の行動は変わってきます。僕はそういう会社の仕組みを深く調べず、契約を結んでしまったことが良くなかったと思います。

『それはあなたが悪いのでは? 30歳にもなって世の中のこと知らなくて』と言われたら、僕が悪いです。会社からしても『契約したのは秋本さんですよね?』となるので。今、ツイッター、インスタ、ホームページでいろんな会社からDMで『こういうことやりませんか?』と来る。でも今は文面を見ていろいろと感じられるし、何より会社のホームページを見るじゃないですか。でも、当時はそんなこともせず『やりたいです』と言っていたので」

――一般社会からすると信じられないかもしれませんが、それもアスリートの現実です。原因はどこにあるのでしょうか?

「自分に余裕がないからです。お金がない、余裕がない、将来が見えない……となると、全部おいしい話に聞こえてしまう。そう思っているアスリートもいっぱいいると思います。今ならYouTubeに出たり、テレビに出たり、露出がしやすい。でも、こういう番組に出たらどういう見られ方をするかも想像できずに出ている人もいるはず。バラエティー番組は好きじゃないけど、オファー来たし、お金がいいから行くかと思ってしまいます。

 でも、実際に出てみたらさんざんいじり倒されて『何、この人?』みたいに思われるブランディングにつながることもあります。当然、出てみないと分からない領域かもしれないですが、それは“知らないことを知らない”だけ。そこをいろいろ調べてみる、自分なりの人脈で聞いてみる、そういうことは絶対しておいた方がいいと僕は思います。特にある程度、実績を残した人ほど“おいしくない”おいしい話が来きます。それをどう見極められるかです」

――見極めるポイントはどこにあると思いますか?

「本当に自分がなりたい姿が見えているかどうかじゃないでしょうか。スポーツに置き換えたらシンプル。日本一を目指す大学生がA社というサプリメント会社がスポンサーにつきたいと言われた時、自分なりに調べてA社よりB社がいいと分かれば断ると思う。それは、知らないことを知ろうとしているから。しくじり先生じゃないですが、僕の場合は知らないことを知らなかったからこうなった、ということを後輩にも知ってもらいたいです」

■秋本真吾

 1982年生まれ、福島県大熊町出身。双葉高(福島)を経て、国際武道大―同大大学院。400メートルハードルを専門とし、五輪強化指定選手に選出。当時の200メートルハードルアジア最高記録を樹立。引退後はスプリントコーチとして全国でかけっこ教室を展開し、延べ7万人の子どもたちを指導。また、延べ500人以上のトップアスリート、チームも指導し、これまでに指導した選手に内川聖一(東京ヤクルトスワローズ)、荻野貴司(千葉ロッテマリーンズ)、槙野智章、宇賀神友弥(ともに浦和レッドダイヤモンズ)、神野大地(プロ陸上選手)ら。チームではオリックスバファローズ、阪神タイガース、INAC神戸、サッカーカンボジア代表など。オンラインサロン「CHEETAH(チーター)」では自身のコーチング理論やトレーニング内容を発信。多くの現役選手、指導者らが参加している。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)

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