田中希実はなぜアジア大会5日間で別人級に変われた? イップス克服、最後に出た59秒6…父も驚いた「全身全霊、最高のラスト」
9月の愛知・名古屋アジア大会で、田中希実(豊田自動織機)は10000m銀、1500m銅、5000m銀と、5日間で3つのメダルを獲得した。しかし、その3レースを数字で追うと、結果以上に大きな変化が見えてくる。ラスト1周(400m)は最後の5000mで自身初の59秒6へ。その裏に「イップスみたいな状態」と表現した苦しい期間があった。なぜ5日間で走りは変わったのか。父・田中健智コーチへの取材も行うことで親子の取り組みが鮮明になった。(取材・文=寺田 辰朗)

「THE ANSWER 陸上PLUS|INSIGHT」 愛知・名古屋アジア大会
9月の愛知・名古屋アジア大会で、田中希実(豊田自動織機)は10000m銀、1500m銅、5000m銀と、5日間で3つのメダルを獲得した。しかし、その3レースを数字で追うと、結果以上に大きな変化が見えてくる。ラスト1周(400m)は最後の5000mで自身初の59秒6へ。その裏に「イップスみたいな状態」と表現した苦しい期間があった。なぜ5日間で走りは変わったのか。父・田中健智コーチへの取材も行うことで親子の取り組みが鮮明になった。(取材・文=寺田 辰朗)
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田中希実のアジア大会中・長距離3種目挑戦は、ラストスパートのタイムに着目することでの走りの内容をより深く理解することができる。
[9月24日]10000m2位・32分41秒54<62秒5>
[9月26日]1500m3位・4分06秒14<63秒7>
[9月28日]5000m2位・15分11秒65<59秒6>
3種目目の5000mはラスト1周が59秒6、自身初めての60秒切りだった。それに対し最初の10000mは62秒5。10000mは残り1000mからペースが上がったのに対し、5000mはラスト1周まで上がらなかった。その違いはあったが、走りの“技術”にも違いがあった。田中にとって極めて大きな意味を持つ59秒台だった。
順を追って見てみよう。
10000mの田中はスローペースにも焦らず、先頭に出ずに落ち着いて走っていたが、9300mでトップを走っていたW・ヤヴィ(バーレーン)の前に出た。最後の1周に入っても田中が先頭で飛ばしていたが、残り250m付近で3000m障害の五輪&世界陸上金メダリストのヤヴィが猛スパート。フィニッシュでは2秒36、約10m差をつけられてしまった。
「ラスト1周を60秒では走りたかったですね。ヤヴィ選手がそのくらいでしたし」
しかし最後まで、ヤヴィの背中を追う走りはできていた。「あそこでさらに離されてしまったら、ヤヴィ選手と戦うんだ、と言っているだけになってしまいます。諦めてしまったらこれからも追いつけない。嫌なイメージを持たずに5000mも一緒に走ることができます」
ラスト400mは満足できなかったが、ラスト800mが2分09秒7だったことは合格ラインだった。
「父が世界の10000mはラスト800mが2分10秒で決着がつくと言っていました。無意識にそのレベルで走れたことは成長ですが、父の想定をもっと超える走りをしたいと思います」
だが2日後の1500mはラスト1周が63秒7と、1秒以上タイムを落とした。500mから田中がトップに立ってレースを引っ張ったが、ラスト250m付近でN・コリル(バーレーン)に抜かれ、残り100mまでは食い下がったが、最後の直線で引き離された。残り20mでC・リ(中国)にもかわされている。
「ラスト300mを(47秒7だったが)45秒を切らないといけませんでした」と悔しがった。400mに換算すれば60秒となるスピードで走りたかったのだ。
ラスト1周の61秒台は過去、8位に入賞した2023年のブダペスト世界陸上5000m決勝など何レースかあった。60秒台となると、田中コーチの記憶では2023年のアジア選手権(4分06秒75で優勝)があるだけだった。1500mの63秒7を「抜かれると固まる悪いクセが出ました」と田中コーチは分析していた。
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