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ストイコビッチの美技が「人生を変えた」 引退から22年、Jリーグ名古屋に残した記念碑以上の痕跡

国立競技場でのホームゲームにゲストとして招かれ、始球式で登場したピクシー。久々の日本滞在は「最高の時間だった」と帰国後にコメント【写真:宇都宮徹壱】
国立競技場でのホームゲームにゲストとして招かれ、始球式で登場したピクシー。久々の日本滞在は「最高の時間だった」と帰国後にコメント【写真:宇都宮徹壱】

ドラガン・ストイコビッチは日本サッカーに何をもたらしたのか?

 北野が言うように、ピクシーのプレーを観て「サッカーをやってみよう」と思った子供たちは、それなりにいたのだろう。一方で、彼の故国であるユーゴスラビア(のちのセルビア)に強い関心を抱くようになり、ユーゴ代表の試合を観戦するために首都のベオグラードを訪れるファンも現れるようになる。これがもっと「重症」になると、ピクシーがきっかけでセルビア語を現地で学んだ日本人も、1人や2人ではない。私が2003年にベオグラードを訪れた時、そうした若者が5人ほどいた。その1人が、小柳津千早(おやいず・ちはや)である。

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「ピクシーが来日した時、僕は(愛知県)豊橋の中学生でした。プレーヤーとして輝きを増していったのは、ベンゲルが監督になった1995年から。それで僕も雑誌で、ピクシーのことを調べるようになったんですね。1990年のワールドカップで、マラドーナがいるアルゼンチン代表とPK戦までもつれる接戦をしたこと。サビチェビッチやミヤトビッチがいるユーゴ代表のキャプテンで10番をつけていること。『凄い選手が名古屋に来てくれたんだ』って思いましたね」

 長じて大学でセルビア語を学んだ小柳津は、現地でさらに研鑽するべく2003年にベオグラードに私費留学している。帰国後は在日本セルビア大使館の職員を10年務め、セルビア人の妻と2人の息子とともに2021年からセルビアに移住。今は通訳・コーディネーターとして活躍している。「ピクシーに人生を変えられた男」のキャリアは、実に波瀾万丈であった。

 当のピクシーは現在、セルビアの代表監督を務めている。生活の拠点はフランスのパリだが、代表の活動がある時はベオグラード近郊にあるナショナルトレーニングセンターにやって来て、持ち前のカリスマ性を発揮しているそうだ。

 ちょうどユーロ2024予選、対ハンガリー戦を控える中、小柳津は憧れのヒーローと立ち話をする機会があった。Jリーグ30周年を記念して来日し、国立競技場での名古屋のホームゲーム(8月5日)に招かれた時の思い出について、嬉しそうに語ってくれたという。

「本人いわく『最高の時間だった』そうです。実は2021年の6月にも、日本との親善試合で来日していますが、コロナ対策で隔離されていたんですよね。今回は久々に、日本での滞在を楽しんだみたいです」

 ドラガン・ストイコビッチは、名古屋というクラブや地域を超えて、日本サッカー界に何をもたらしたのだろうか。「サッカーの面白さですよね」というのが、小柳津の答え。そして「ピクシーに人生を変えられた男」は、こう締めくくった。

「ピクシーにボールが渡ると、誰もが『次にどんなプレーをするんだろう』ってワクワクしたものです。ドリブル、パス、シュート。どれも一級品で、サッカーというスポーツの面白さを日本のファンに教えてくれたのがピクシーでした。1人の選手が、スタジアムを訪れた人たちを魅了して、その人たちの人生を豊かにする。それを可能にしたのが、ピクシーだったと思います」(文中敬称略)

(宇都宮 徹壱 / Tetsuichi Utsunomiya)

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宇都宮 徹壱

1966年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追う取材活動を展開する。W杯取材は98年フランス大会から継続中。2009年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)のほか、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』(カンゼン)、『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)など著書多数。17年から『宇都宮徹壱WM(ウェブマガジン)』を配信している。

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