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高校閉鎖の危機、食い止めた方法は運動部休部 問われた「部活と学業」予算分配の問題

「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回はかつて学校閉鎖の危機に追い込まれたある高校の実話を紹介する。

今回は学校危機に追い込まれたある高校の実話を紹介(画像はイメージです)
今回は学校危機に追い込まれたある高校の実話を紹介(画像はイメージです)

連載「Sports From USA」―今回は学校危機に追い込まれたある高校の実話を紹介

「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回はかつて学校閉鎖の危機に追い込まれたある高校の実話を紹介する。

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 2012年1月、テキサス州南部の小さな町の高校の運動部がいくつもの米メディアで取り上げられた。

 全校生徒600人足らずのこの町の高校を運営するプレモント独立学区は、長年の財政難と学業不振のために、州から求められる学区としての要件を満たすことができず、近隣の学校に吸収されるかもしれないという状態に陥っていた。教育長は州に対して学校閉鎖までの時間の猶予を求め、その間に住民投票で学区を支えるための住民税増税が決まった。しかし、短い猶予期間とわずかに増えた財源で、州からの要件を満たすために必要な学業成績などの結果を出すことを迫られていた。

 そこで、教育長はコスト削減のために全運動部の休部に踏み切ることにした。この高校の運動部を含む課外活動は年間でおよそ15万ドル(約2000万円)の費用がかかっていたからだ。いくつものメディアで取り上げられたのは、州の要件を満たせない学区の教育長が、学校閉鎖を避けるために、運動部活動を休止するという決定をしたからである。アメリカでは、学校で運動部活動をすることに多くの人が関心を持っていることの表れといえる。この決定に関連して、多くの議論がなされ、意見やレポートが発表された。

 そのひとつが雑誌「ジ・アトランティック」に2013年10月に掲載された「高校スポーツに反対する事例」というタイトルの記事である。アマンダ・リプレー氏によるこの記事は、アメリカの高校は、教科教育よりも運動部活動に費用を割いていると指摘し、この10年間、アメリカの運動部のあり方について論じられるときには、繰り返し引用されているものだ。

 このプレモント独立学区の高校では、アメフト部の選手1人あたりに必要な学区財源は1300ドル(約17万円)であったのに対し、数学では生徒1人あたり618ドル(約8万3000円)であったという。また、この記事は、教育経済学者による西海岸の公立高校の財政分析も引用し、数学には生徒1人あたり328ドル(約4万4000円)、チアリーディング部には1348ドル(約18万円)かかっていると伝えた。運動部のほうが座学の教科よりもお金がかかるのは当たり前かもしれないが、運動部の費用を削減すれば、よりよい教員やもう1人教員を雇用するお金をやりくりできるという意味が含まれる。

 リプレー氏の記事に対する反論もあった。「ジ・アトランティック」は「高校スポーツは学業を殺さない」と題した記事も掲載している。筆者のダニエル・H・ブラウンとコリン・ヒットは、運動部参加は、生徒の学力テストの向上と退学率の低下に正の相関があるというデータを出して反論。運動部活動はソーシャル・キャピタル(社会関係資本)を構築するのに役立ち、これは、不利な状況に置かれている生徒に不可欠なものだと主張した。

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谷口 輝世子

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。近著に『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか――米国発スポーツ・ペアレンティングのすすめ』(生活書院)ほか、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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