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10代若手が30歳の選手と戦う重要性 日本サッカーの“空洞化”回避にモラス雅輝が持論

ザンクト・ペルテンのテクニカルダイレクターを務めるモラス雅輝氏【写真:編集部】
ザンクト・ペルテンのテクニカルダイレクターを務めるモラス雅輝氏【写真:編集部】

Jリーグに戻って感じた若手選手の少なさ

 一方で業務提携というシステムも、若い選手たちを実戦で鍛えるには有効だ。

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「これは1つのクラブに所属しながら、2つのチームで試合に出られる仕組みです。現在ドイツのアルミニア・ビーレフェルトでプレーする奥川雅也は、2015年にザルツブルクと契約しましたが、ザルツブルクにはセカンドチームがないので業務提携先のリーフェリングへ貸し出され、2部の試合で経験を積むことができた。要するにザルツブルクでは、まだ試合に出られない選手でも、業務提携をしたクラブに受け皿になってもらうことでプレー機会を得られる。さらにもしそこで大活躍をしたり、ザルツブルク側がなんらかの理由で人数が足りなくなったりした場合などは、シーズン途中でも呼び戻すことができます。だから1人の選手が、今週は1部で、来週は2部でプレーすることもあり得るわけです」

 ただしオーストリアの人口は約895万人で大阪府と同程度。当然、日本全体と比較すれば選手人口も少ない。しかしそこで浮かび上がるのが、個々の選手たちのプレー機会の創出と、その濃度の相違だ。

「数年前にザルツブルクが、パリ・サンジェルマンを筆頭とするメガクラブを軒並み倒してU-19の欧州王者になりました。その時に、ザルツブルクのアカデミー責任者は『ウチの選手たちは、身体の使い方やインテンシティーも含めて、みんな大人のサッカーをしていたからだ』と話していました。オーストリアでは、17歳~21歳くらいの選手たちが、レンタル先や業務提携先のクラブで、30歳の大人の選手たちとプレーすることになる。こうした経験が凄く重要なんだと思います」

 一方、日本もユース、高校、大学が多くの選手たちを抱えているが、公式戦に出場する選手は限られ、しかも同じカテゴリー内の試合しか経験していない。モラス雅輝は、ヴィッセル神戸で約10年ぶりにJリーグで仕事をしたが、以前と比べても若い選手が少ない印象を受けたという。

「オーストリア・ブンデスリーガでは、たぶん1部の選手たちの平均年齢が23歳を少し超えたあたりで、2部は22歳台だと思います。ところがJリーグは経験豊かな選手が多くて、メンバー表を見ても(平均年齢が)27~28歳のチームが多かった。ザンクト・ペルテンの場合は、23歳以上の選手をスカウティングしないので、対象者は非常に少ないですよね」

 Jリーグでも最近は若い選手のレンタル移籍が目立つようになったが、3つのクラブがJ3に参戦したU-23チームは廃止されてしまった。若い選手たちの効率的な実戦経験の場は、依然として不足している。(文中敬称略)

(加部 究 / Kiwamu Kabe)

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モラス 雅輝

ザンクト・ペルテン テクニカルダイレクター 
1979年1月8日生まれ。東京都調布市出身。16歳でドイツへ単身留学、その後指導者の道へ進む。オーストリアサッカー協会のコーチングライセンスを保持し、男女のトップチームや育成年代を指導してきた。2008年途中から10年まで浦和レッズのコーチ、19年6月からはヴィッセル神戸コーチとなりクラブ史上初の天皇杯優勝を経験した。21年からは再びオーストリアに戻り、22年7月にザンクト・ペルテンのテクニカルダイレクターに就任した。

加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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