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「この戦い方に未来はない」 高校サッカーとロングスロー、過度な勝利至上主義に警鐘

ロングスローのたびにプレー時間が削られる

 こう指摘して、上船総監督はさらに続けた。

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「育成年代では、濃密な実戦経験をこなしていくことが大切です。ところがロングスローをする場合は、投げる選手が決まっているので、わざわざ逆サイドからやって来たり、滑らないように布でボールを吹いてから助走をつけたりして始まることもあります。そうなると1回で40~45秒、なかには1分間近くも要することもある。もし、これが(1試合で)10回も繰り返されれば10分間近くも実際のプレー時間が削られます。一般的にスローインの場面では、投げるところが見つからなくて時間がかかると遅延行為で警告を受けますが、どんなに長い間迷っているようでも20~30秒程度なんです。それに対し、ロングスローの準備には倍以上の時間をかけているケースがあるのに、なぜ遅延行為と見なされないのか理解に苦しみます」

 そもそも高校生のノックアウト方式による全国大会が開催され、そこに大観衆が詰めかけ、テレビ中継を筆頭にメディアが大騒ぎをすること自体が国際常識から外れている。

 では、なぜ欧州諸国などでは育成年代の全国大会を行わないのか。それはまさに過度な勝利至上主義が選手の害になることを知悉(ちしつ)しているからで、現実にこうして日本では高校選手権に勝つためには手段を選ばないチームが蔓延している。

 今回のカタールW杯で日本の平均身長は、参加国中で下から3番目の179.7センチだった。これではいくらロングスローを放り込んでも跳ね返されるばかりで、戦略としては愚の骨頂になる。指導者が将来世界に飛躍する選手を育てようという高い志を持つなら、無益なことは自明の理だ。

 逆に平均身長が大会に出場した32か国中で最高だったのがセルビア(187.6センチ)だが、そのセルビアでも育成年代でのロングスロー指導はあり得ないという。かつて清水エスパルスを天皇杯制覇に導き、現在は相生学院高校での指導に携わるセルビア出身のゼムノビッチ・ズドラブコ氏が答える。

「勝つために手段を選ばないなら、確かに大きな選手をペナルティエリア内に置いて、ロングボールを入れてこぼれ球を狙う。それは一番簡単な方法です。しかしセルビアでは、サッカーを芸術だと捉えています。18歳以下では、チームの勝利より何人がプロに進んだか、という内容が重視されます」

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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