「GKに求められる最も重要な要素が凝縮」 楢﨑正剛氏が選ぶ年間ベストGKとは
「技術や理論だけでは語り切れないセービング」と評した第31節の柏レイソル戦
数多くのファインセーブを見せたなかで、楢﨑氏が「この試合は特に印象に残っています」と切り出したのは10月2日の第31節柏レイソル戦だ。
前半から被決定機を幾度となく防ぎ、迎えた後半22分。左サイドからのクロスボールをドウグラスに頭で合わせられた。至近距離から打点の高いヘディングシュートに襲われたこの場面で、東口は身体を面にするようにして対抗。ボールを身体に当てて危機を脱し、理屈では語れないビッグプレーでチームに活力をもたらした。
「技術や理論だけでは語り切れないセービングでした。経験に基づいた動きや準備は大切ですが、最終的には本能というか、GKに求められる最も重要な要素が凝縮されていたように感じます。このシュートが決まらないならこの試合はもう決められないかもしれないな、と相手に思わせるほどのシュートセーブでした」
試合をスコアレスドローで終え、G大阪は勝ち点1を獲得。すると東口の鬼気迫るパフォーマンスがチーム全体に伝播したのだろう。柏戦を含めたラスト4試合を2勝2分けで乗り切り、辛くも15位でJ1残留を決めた。
J1参入プレーオフ決定戦に回る16位の京都サンガF.C.との勝ち点差はわずかに1ポイント。得失点ではG大阪が劣っていたため、柏戦で獲得した勝ち点1が大きな意味を持った計算になる。
「リーグ戦は終盤だけがドラマではありません。34試合トータルの結果で競うわけですから、どの試合の勝ち点が最終的な価値を決めるのか、判断が難しいところもあります。ですが、このケースに限って言えばガンバが窮地に立たされていたのは紛れもない事実。追い込まれた精神状態でプレーするなかで、そこで力を発揮できるかどうかは本当の意味での選手の価値につながります。プレーヤーにとって真の力量が問われるシチュエーションで、東口選手は最高の仕事をやってのけました」
昨今、GKは外国籍選手の活躍が目立つなかで、依然としてリーグ屈指のGKとして呼び声高い東口。36歳とベテランの域に差し掛かっているが、楢﨑氏は経験に基づいた持論を展開する。
「僕自身もプレッシャーがかかる状況でプレーした経験があります。リーグ優勝した時は重圧を感じましたし、日本代表でも期待とともに責任を求められました。残留争いをしてなんとか持ちこたえたこともありますし、反対に残留させられなかった苦い経験もあります。これらを振り返って感じるのは、年齢を重ねるほどプレッシャーが重くのしかかるということ。自分がやらなければ、という思いもあったのでしょう。ただ、フィジカルやメンタルをトータルで考えた時に、僕が一番動けていたと感じるのは30代半ばくらいの時期です。自分自身の能力を把握し、チーム状況とゲームの流れを読めて、それでいて落ち着いてプレーできる。おそらく東口選手もいろいろなものが見えているタイミングではないでしょうか」
修羅場をくぐってきた数だけ、それは血肉となるのだろう。J1残留というタスクを見事に達成し、その原動力となった東口はますます円熟味を増している。