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好きなバレーボールから「早く逃げたい」 “怒られる指導”で益子直美に生じた負の感情

引退後も消えなかった自分の中にしみ込んだ価値観

 益子さんにはずっと抱えている悩みがあった。一時期は体調が悪くなるほどにバレーボールが嫌いだったという。好きで始めたはずなのに、自分の中で嫌いと思っているのはなんとつらいことか。代表に選ばれるほど才能を持った選手だったのに、自分に自信が持てなくて、自分を否定し続けているのは悲劇なんてものではない。

「なんでだろうなって悩んでいました。そして自分でいろいろと分析して思ったのは、私に知識がなかったから、それを打破する力がなかったんじゃないかなって。周りのせいにしてきてしまった。そうした現状を打破するには学んでいくしかないなと思ったのが、50歳の時なんです」

 それでもなかなか自分の中にしみ込んだ価値観は消えなかったという。

「例えばスポーツ番組のキャスターとして取材している時に、オリンピックに出場する選手が『楽しんできます!』というコメントを聞くと、『はぁ? なんでそんなこと言うの?』って私も思ってましたから(苦笑)」

 自身が嫌だったことなのに、それを変えたいと思っているのに、自分の中にある価値観の基本は植え付けられたもののまま。そんな益子が様々なことを学びながら、新しい価値観を自分の中にしっかりと持てるようになった。

「選手たちを勇気づけるポジティブな言葉というアメリカ発祥のペップトークという手法を本で読んだり、セミナーを受けたりして学びました。そのあと感情のコントロールというところでアンガーマネジメントを受けて。バレーボール界って怒ってしまう監督が多かったので、『感情のコントロールができるといいんじゃないかな』と思って。私自身がセミナーができる講師の資格を取りました。そうやって学んでいくなかで、少しずつ自信が持てるようになったかな。過去の、自分を否定し続けてきた自分をどうすれば受け止められるのかな、前向きにバレーボールができたのかなというのと向き合えるようになったと思います。

 少しずつ自分の思いを口に出して言えるようになって、それまではコメンテーターみたいなのはやりたくないと断っていたけど、少しずつチャレンジしようと思うようになりましたね」

“あの時代はそれが普通”という見解で語られたりするけど、当時それが常識だったからやられていてもしょうがないとか、問題はないというのはまた別の次元の話。知らなかったから何をやってもいいわけではないのだから。ダメなことはどんな時代であってもダメなのだ。そのための正しい知識は、正しく継承されていかなければならないのだろう。

(中野 吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

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中野 吉之伴

1977年生まれ。ドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。ドイツでの指導歴は20年以上。SCフライブルクU-15チームで研鑽を積み、現在は元ブンデスリーガクラブであるフライブルガーFCのU12監督と地元町クラブのSVホッホドルフU19監督を兼任する。執筆では現場での経験を生かした論理的分析が得意で、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に『サッカー年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)、『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)がある。WEBマガジン「フッスバルラボ」主筆・運営。

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