福士加代子、一山麻緒を輝かせた「裏方の経験」 五輪に5度導いた名将が貫くこだわり
選手1人ひとりの才能を見抜き、個を伸ばしていく陸上指導者の、独自の育成理論やトレーニング法に迫るインタビュー連載。今回は五輪に4大会連続で出場した福士加代子を育て、現在は昨年の東京五輪女子マラソンで8位入賞を果たした一山麻緒を指導している、資生堂ランニングクラブの永山忠幸コーチに話を聞いた。自身のキャリアを振り返りながら、指導の原点となった経験について明かしている。(取材・文=佐藤 俊)
連載「陸上指導者の哲学」、資生堂ランニングクラブ・永山忠幸コーチインタビュー第1回
選手1人ひとりの才能を見抜き、個を伸ばしていく陸上指導者の、独自の育成理論やトレーニング法に迫るインタビュー連載。今回は五輪に4大会連続で出場した福士加代子を育て、現在は昨年の東京五輪女子マラソンで8位入賞を果たした一山麻緒を指導している、資生堂ランニングクラブの永山忠幸コーチに話を聞いた。自身のキャリアを振り返りながら、指導の原点となった経験について明かしている。(取材・文=佐藤 俊)
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東京五輪女子マラソンで17年ぶりの入賞となる8位に入り、3月の東京マラソンでは鈴木健吾(富士通)とともに夫婦揃って日本人トップでゴールした一山麻緒(資生堂)。来年のMGC、その先のパリ五輪、そして日本記録更新への期待も膨らむ注目のアスリートだが、彼女を指導しているのが永山忠幸コーチである。一山の前には今年引退した福士加代子を育て、4度、五輪出場へと導いた。永山コーチの指導の原点とは――。
「私の指導のベースは、サラリーマン時代に築かれました」
永山コーチは、そう語る。
東京農業大時代は主力として箱根駅伝に4回出走した。81年の57回大会では5区5位でチームの総合4位に貢献している。その後、現役を引退し、スポーツメーカーに就職した。そのサラリーマン時代、何が永山コーチの指導のベースになったのだろうか。
「裏方の経験が大きかったですね。私たちは選手とともに、すごく脚光を浴びる表舞台で戦わせてもらっていますが、裏方の思いですとか、準備の大変さとかをあまりよく分からずに競技している選手や指導者が多いと思うんです。私はその裏方を20年間経験して、現場だけではなくチームとして選手を支え、戦うことの大切さを学びました」
戦うのは選手と監督だけではなく、コーチやトレーナー、栄養士、運営スタッフもいる。彼らへの気配り、目配りはトップに立つ者として欠かせない資質だ。さらに永山コーチは、20年間の裏方経験のなかで、実践指導に役立つ重要なものを得たという。
「当時、私はスポーツメーカーでプロモーションを主な仕事としており、その一つとして海外のナショナルチームのサポートをしていました。5、6か国の五輪に出場するチームのユニフォームを納品したりしていたのですが、そこには五輪で金メダルを獲るような選手がたくさんいたわけです。彼らはすごくハングリーで、貪欲に練習します。そういう姿勢に驚かされましたし、日本の弱さをそこに見た感じがしました。
その時、直接、選手やコーチに練習プランやトレーニングの内容を聞くことができたんです。それを軸にワコール時代はトレーニングメニューを作っていたので、サラリーマン時代に見聞きしたことが私の大きな財産になりました」