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選手、指導者にとって「幸せ」とは何か 為末大「私が考える『良い指導者』とは…」

為末氏が考える良い指導者とは【写真:堀浩一郎】
為末氏が考える良い指導者とは【写真:堀浩一郎】

選手と指導者が陥りやすい、共依存関係

 私が考える良い指導者とは「選手が自立できるように助けられる人」です。

 選手と指導者の間には微妙なバランスがあって、指導者には選手を変える力があります。このことを認識しておかなければなりません。指導とは、繰り返し選手を変える行為です。この関係を続けることで、個人差はあるもののそこには「共依存関係」が生まれます。

 指導者にとって、選手が慕ってくれることは大きな喜びにつながりますが、それは同時に、選手に依存させてしまうことにもなります。ですから、選手から見える景色の中から指導者である自分がいなくなることに、寂しさを感じるかもしれませんが、これは選手自身の自立を意味します。あくまでこれは私個人の意見ですが、選手が指導者を完全に忘れるところまでいかないまでも、比重が下がることが本当は望ましいのではないでしょうか。

 自立とは、誰にも頼らないことではなく、依存を分散させることだといえます。いろいろな人に上手に頼れるよう導くのが共依存関係に陥らないポイントです。では、どうすれば選手は自立できるのか。

 人生の幸せはこれだと、選手自らが決め、選んでいけることが大事であって、指導者はその手助けをし、できるようにすることが最善だと思います。もし指導者が選手の幸せや、そのためにすべき行動を決めてしまうと、最終的に選手の自立を阻むことにもなりかねません。選手自身が考えるのをやめてしまい、頼るようにもなります。ですから指導者は本人が考えるようにうまく促すことができればいいのです。

 この際、注意しなければならないことがあります。「選手自身が考えることが大事」とはいえ、指導者が選手に「投げかけ」をするばかりではいけません。

 例えば、「何のために走るのか?」と陸上競技選手に問いを投げかけたとしても、オリンピックに出ている選手でさえ、答えられる人は数えるほどしかいないでしょう。

 そもそも好き・嫌い、という嗜好は親や周囲が与えた価値観の中で生じてくるもので、自分の価値観を見極めることは簡単ではありません。何事も最初は押し付けから始まるものです。こうして話している言語でさえ、最初は外から一方的に浴びせられることによって習得し、使いこなせるようになり、いつかは自由になっていきます。

 中高生にいきなり「何が幸せか?」と聞いても分からないのが当たり前。だから指導者が選手の幸せを決め、押し付けから入るのもありだとは思っています。しかし最終的に選手が自立するためには、指導者が選手を手放すタイミングを計っていく必要があります。

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