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「なぜ頑張った自分を信じないの」 バドミントン・小椋久美子が高校生に伝えたエール

引退する女子生徒に伝えたのは、成功ではなく“失敗体験”

 小椋さんは「あ~、あるね~」と瞬時に現役時代を思い返した。脳裏に浮かんだのは、壁を乗り越えた経験ではなく、乗り越えられなかった経験だった。

「今の自分の実力ではメダルを獲れる位置にいないって思ったんだよね」

 2002年に潮田さんと「オグシオペア」を結成。04年アテネ五輪は代表選考レースが始まる直前に自身が足を骨折し、五輪の舞台に立つことすらできなかった。バドミントン人気に火をつけ、メダル獲得が期待された08年北京五輪。やりたいことを我慢し、全てを競技に捧げて向かっていった。しかし、本番3か月ほど前の5月に自分を信じ切れなかったという。

「5月に自分でメダルを獲れないと思ったから、もっとやり込まないといけないと思っていた。自信をつけて試合に臨まないといけないと思い過ぎて、焦りの方が強かった。自分自身との対話もできていなくて、やり込んでやり込んで、五輪までに3回ぎっくり腰をした。それで本番にいい形で臨めていなかった。結局やり込んでもないし、ちょっと腰も不安を抱えた状態で五輪に出場した状況になってしまった」

 結果は5位。4年間の努力を出し切れなかったこと、メダルを逃した結果はもちろん悔しい。北京から帰国してしばらく考え込んだ。「なんでこんなに悔いが残っているんだろう」。たどり着いた答えは、五輪3か月前の自分だった。

「この4年間はもう一回できるかと言われたら本当に難しい。それだけ頑張ってきたと言えるくらい自分の中で誇れるの。何が一番悔しかったかって、あんなに頑張ってきた自分をなんでメダルを獲りたいという気持ちで信じてあげなかったんだろうって思ったんだよね。それが私で、私はそれ以上でも以下でもない。頑張ってきたのは私なのに、それを信じてあげていない自分に後悔した。それが五輪が終わった後の一番の悔いだった」

 20歳ほど年下の高校生たちの前で自分をさらけ出した。成功体験ではなく失敗談。結局、腰痛に加え、08年末から右足首の故障を繰り返した末、10年1月に26歳で現役引退を決断した。バドミントン界を華やかに牽引しながら、五輪メダリストにはなれなかった。

 ただし、コートを去っても人生は続いていく。高校生活を区切りにラケットを置く女子生徒の「今に生きていることは何か」という問い。思いを込めて回答した。

「自分がこれまで頑張ってきたことは、嘘でもなければ本当に称えていいことだと思う。それを信じてあげられなかったら結果は出ない。だから、どんなことがあっても自分を信じてあげようとしている。今は新たな道に進んでも、それだけは大切にしようってなったかな」

 小椋さんが現役時代から持ち続けていた願いは、引退後もバドミントンに携わり続けること。今回の“夢授業”は生徒たちのためでもあったが、小椋さんにとっても願いが叶った1時間だった。

「私自身は今までバドミントンをやってきた中で一つだけ思っているのは、目標に対してしっかりと願いや思いを持って頑張れば、叶わないことはないということ。正直、私は五輪でメダルを獲りたかった。だけど獲れなかった。願いは叶っていないけど、引退して今は子供たちにバドミントンを教えて、今日もこうやって日ごろ会えない皆さんに会える。そしてバドミントンを通していろんなお話ができる。

 私はバドミントンでずーっと何かに携わっていたいという思いがあったから、試合の結果が出なかったとしても、違う形で私の願いが叶っている。形を変えたとしても、自分の思いがあれば叶わないことはないと私は信じています。今の状況は凄く大変だと思うけど、絶対にその思いだけはなくさないでほしいなと思うし、どんな形になったとしても必ずいろんな道があるから。きっとみんなには明るい未来が待っていると思うので、それだけは信じて頑張ってください」

 小椋さんが最後に送った高校生へのエール。どんな時も自分を信じ、下を向かない。バドミントンは上を向いてプレーする競技だから――。

■オンラインエール授業 「インハイ.tv」と全国高体連がインターハイ全30競技の部活生に向けた「明日へのエールプロジェクト」の一環。アスリート、指導者らが高校生の「いまとこれから」をオンラインで話し合う。今後はレスリング・高谷惣亮も登場する。授業は「インハイ.tv」で全国生配信され、誰でも視聴できる。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)

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