3歳の子を持つ岩崎こよみへ「やり切って」 先輩・荒木絵里香から五輪で継がれるママアスリートの情熱――女性アスリートと出産
3歳の息子を持つバレー岩崎こよみへ「良い循環を…やり切ってほしい」
――ただ、出産から9か月で始まった2014年10月のリーグ開幕戦から大活躍で、翌年3月には代表復帰の打診を受け、再び日の丸のユニホームに袖を通しました。代表クラスは長期の合宿や遠征が頻繁にあり、物理的に離れ離れになる。娘さんはバレーボールが“ママを奪ってしまうもの”と認識していたとか。
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荒木「カレンダーで私に会えない日に『×』をつけたり、家の中に子どもなりに罠を仕掛けて私を行かせないようにしたりで……。母として娘の大事な瞬間や見たかった瞬間、一緒に共有したかったものができなかったのは少し寂しい思いもあります。それが娘に今後どう影響していくかは分からないし、その難しさは今も続いています。それでも、娘に悲しそうな表情を見せないことだけは決めていました。自分が決めたことに後悔は何もありません。
覚悟を持って決めた分、しっかりとやりきらないといけない。仕事として、自分の大好きなやりたかったことに夢を持ってやり遂げたいとずっと思っていた。なのに何か悲しそうにしていたら、きっと娘も『なんで、そんな想いをして行くの?』と思うじゃないですか。だから、自分は本当にやりたくてやっているし、そこに自分の夢や目標を見い出したから。ちゃんと良い顔で家を出ていかなきゃと思って、そんな風に過ごしました」
――荒木さんは出産または出産を考えている女性アスリート、関係者らの支援を行う団体「MAN(ママ・アスリート・ネットワーク)」の代表理事を務め、アスリートの子育てを含めた環境の課題を誰より感じていると思います。今後、「出産で競技を諦めるアスリート」が減っていくために必要なことはどんなことだと思いますか?
荒木「そもそも、出産しても競技を続けたいと思う環境がないと何も始まらない。でも、競技をやりたいから(一方的に)サポートしてくださいと要求するのも違う。アスリートである以上、結果が伴って必要とされる人材でないと給料をもらって競技を続けるのは厳しいので、難しいところでもあります。受け入れ態勢として今、ナショナルトレーニングセンター(NTC=日本オリンピック委員会が運用するトップレベル競技者用トレーニング施設)内にも託児所や産前産後のサポートプログラムができて、少しずつですが変化が起こり始めています。
それに追随して各競技団体も動いて、環境がちょっとずつ整っていくと『もしかしたら自分もできるかもしれない』『自分だったら、どういう形でできるかな』と考えるきっかけになる。それにママアスリートとして実際に活躍する人の姿を見て、エネルギーもらって頑張れる部分がある。さっき(第3回で)遠征中に『子どもと一緒にいなくて大丈夫か』と何気なく言われて傷ついたことを話しましたが、そういうスポーツ界の風潮や社会全体の目線が選択しやすくなっていくのではないかと感じます」
――今回のパリ五輪は3歳の息子を持つバレーボールの岩崎こよみ選手が出場します。代表内定会見では「後の世代の子たちがそういう希望を持った時、それが実現できる環境を作っておきたい」と語っていましたが、パリで活躍する姿は世の中の女性の励みにもなると思います。荒木さんは彼女にどんな期待をしていますか?
荒木「私が出産して復帰した時、上尾メディックスで同じチームだったんです。当時をずっと見てくれて、私もそういう道に行きたいと話してくれました。今は彼女を見て『岩崎選手のようになりたい』と考える選手がたくさんいる。そんな良い循環が続いていくといいなと思うし、岩崎選手の頑張りもそうですが、ご両親や旦那さん、所属チームなど彼女を支える人たちの頑張りも私は近くで見ています。そういう支えがあって、彼女は選手を全うしている。心から応援したいし、やり切ってほしいです」
生理などの健康課題や結婚・出産といったキャリアプラン。こうした女性アスリートの課題はメディア側がどう報じるかという側面も大きい。特に近年はルッキズムが問題視され、報道の在り方が問われている。第5回では実際のアスリートとの立場として、2人がメディアへの想いを語った。
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)