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早大アメフト部QBが異例のプロ野球挑戦 2つの「甲子園」に出場した元134km右腕の覚醒【THE ANSWER Best of 2021】

人生最大の挫折を乗り越え、吉村は3年生の甲子園ボウルでタッチダウンを決めた【写真:本人提供】
人生最大の挫折を乗り越え、吉村は3年生の甲子園ボウルでタッチダウンを決めた【写真:本人提供】

人生初の挫折を味わった早大アメフト部で知った「本気」の本当の意味

 入部した早大アメフト部、正式名称「早稲田大学米式蹴球部ビッグベアーズ」は甲子園ボウルに出場6度を誇る強豪。


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「ピッチャーをやっていたから、ボールを投げられるだろう」という単純な理由でQBを選んだ。攻撃陣の起点となり、パスを出す司令塔。アメフトの花形だ。肩には自信を持っていたが、味わった現実は甘くなかった。

 つまずいたのは「投げる」という基本動作。楕円球特有の回転をうまくかけられず、思い切り投げても30ヤード(約27.4メートル)がせいぜい。野球と違って接触競技。フォームが大きいと相手にタックルされる。フォームを小さくするとボールがいかない。パスの習得まで3か月かかった。

 競技のギャップに苦しみ、1年間は経験者との差を痛感する日々。

「六大学野球で同級生が活躍し、清宮、野村という自分のバックを守っていた後輩がプロ野球に進んでいました。なのに自分はパスも投げられず、試合も出られない。それなりに人生、順調にやってこられた自信が打ち砕かれて、思い切り挫折しました」

 大学2年生の4月、一度は辞めようかと思い悩んだほど。「自分がやると決めたスポーツ。アメフトを心から好きになって、やり遂げないといけない」。ここでプレースタイルを一変。肩の強さではなくボールを持って自ら突っ込む、早稲田にいなかった「走れるQB」に活路を求めた。

 野球にはなかった陸上トラックを使ったスピード系やジャンプ系のトレーニングで体を作り変えた。3年生になり、独自のプレースタイルで定位置を掴むと、12月に悲願の甲子園ボウルに出場。関西の名門・関学大に28-38で敗れたが、吉村はタッチダウンも決めた。

アメフト引退から数か月、吉村の球速は145キロに到達「今年中に150キロを出す」【写真:中戸川知世】
アメフト引退から数か月、吉村の球速は145キロに到達「今年中に150キロを出す」【写真:中戸川知世】

 副将に就任した4年生はリーグ戦で敗退したが、ゼロから始めた競技で4年間をかけて掴んだ自信は、吉村を変えた。部活の引退翌日に下した決断。

 もう一度、野球に復帰し、プロ野球選手を目指す――。

「高校の時に決めていた限界とか、得られていた達成感なんて本当にちっぽけだったと思うくらいの毎日でした。本気ってこういうことなんだと学んだので、この4年間の経験を持って野球に戻ったら、自分はもっと上のステージに行けるんじゃないかと思ったんです」

 野球→アメフト→野球。そして、プロへ。一見、無謀に思える転向だったが、フットボールに捧げた4年間で自分でも驚く進化を遂げていた。

 練習を始めて1か月。最速134キロだった元高校球児はいきなり140キロを突破した。そこからほんの数か月で145キロまで到達。2月から東京の社会人クラブチーム「REVENGE99」に在籍し、4月の公式戦初登板でいきなり8回途中2失点と好投した。

 楕円球を握っていた右腕の覚醒の裏にあったのは、競技転向の“副産物”だった。「アメフトは気が弱かったらタックルで潰される競技。相手を蹴散らす気持ちをそのままマウンドで出せるようになったこと。それが、一番変わりました」と頷く。

 メンタルだけじゃなく、メカニクスもそう。「野球は指だけで投げがちだけど、アメフトのボールは重い分、全身を使って右足の地面からの力を指先まで伝えないといけない。手首の角度が重要なので、その感覚が生きてカットボールも覚えられた」と言う。

 接触競技のアメフトで鍛えた178センチの体は、69キロから83キロに増加した。もともとは「不器用なタイプ」でストレート、スライダー、ツーシームだけだった球種も増え、落ちる変化球を習得中。球速は「今年中に150キロを出す」というのが、今の目標だ。

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