“完璧主義”のアスリートが陥りがちな罠 摂食障害の苦悩から救った「生きていてほしい」の言葉

摂食障害を経て「人生のハードルが下がった」
小塩「もう一つ、長く話しにくいとされていたものとして、鈴木さんは大学時代の摂食障害のご経験(※)についても語られていますよね。摂食障害は、個人の感じ方や性格傾向といった内的な要因だけでなく、競技環境や周囲の価値観などの外的な要因の両方が重なって生じるものだと考えられています。鈴木さんご自身は振り返ってみて、どのように感じておられますか?」
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(※)鈴木明子さんは大学入学時に摂食障害を発症。体重が48キロから32キロまで落ち、半年間リンクに上がることができなかった。
鈴木「私は両方です。外的な要因では中学時代、先輩たちが成長による体形の変化――脂肪がつきはじめて丸みをおびるなど――によって苦労する姿を見ていたことです。当時は選手だけでなく、コーチや親も『太ったら(ジャンプを)跳べなくなる』と考えていましたし、業界の常識として『太ること=悪』だったのです。
また、国際大会では欧米の顔が小さく、手足の長い選手と並べられます。体格差のある海外選手と勝負するには体重を減らすことでしか対抗できない、という強迫観念もありました。
内的な要因としては、完璧主義者であったことが挙げられます。私は体重を減らして周りに『偉いね』と褒められることに、自分の価値を見出していたんですね。それが摂食障害を招いてしまったと思います」
小塩「私自身、さまざまなアスリートのお話を伺うなかで、完璧にやろうとする姿勢が競技の強みとして働く一方で、時に自分を追い込みすぎる方向に向かってしまうこともあるのだと感じています。競技の世界では、それが成果につながる面もあるからこそ難しい。鈴木さんにとって、摂食障害から少しずつ回復していくきっかけになったものは何だったのでしょうか?」
鈴木「病気になって『やりたくても頑張れない』現実を突きつけられた時、母に『食べたいものを食べればいい。生きていてほしい』と言われたことです。『努力していないと自分には価値がない』と思い込んでいたけれど、頑張っていてもいなくても『人の存在価値は変わらない』ことに気づかされました。『今日、ベッドから起き上がって生きているだけで、私、頑張ってるじゃん』と思えるようになってから回復に向かい、人生のハードルもぐっと下がりましたね。
また、当時は他者に対しても完璧さを求めるタイプでしたが、今は『人間だもの、頑張れない時もあるよね』『人にはそれぞれ得意不得意があるものよね』と弱さの違いを個性として認められるようになりました。これは私にとって、めちゃくちゃ大きな変化です」
小塩「とてもつらいご経験だったと思いますが、その経験があったからこそ、今、若い選手たちの悩みや不安に対して、表面的ではない形で寄り添える部分もあるのではないでしょうか。鈴木さんの言葉に重みがあるのは、まさにそのためなのかもしれません」
鈴木「はい、あの経験がなければその後の競技人生も、今の自分もありませんでした。病気になって良かったとは言い切れませんが、多くのことを学んだ大切な時期だったと思います。
ですから、これからもその経験を発信することで、摂食障害で悩んでいる当人やそのご家族に対し、元気に活躍できる証明になれたら、そして『こんな未来があるならば希望が持てる』と言ってもらえるならば、メッセージを届けていきたいと思っています」
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