「自分を盛らない」アリサ・リウの生き方 自然体を貫く「新時代の金メダリスト」誕生の価値

アスリートの理想像になり得るアリサ・リウの生き方
小塩「そんな時、子どもたちにはどのようなアドバイスを送っていますか?」
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鈴木「まずは『スケートは好き?』『誰のためにやっているの?』と、本人の様子を見ながら少しずつ聞いていきます。そして『楽しくスケートができていないのは、本当はお母さんも悲しいと思うよ』と伝えます」
小塩「なるほど、『なぜスケートを始めたのか?』という原点に戻してあげるんですね」
鈴木「はい。それから、プログラムに取り組む際は、振付師として必要なアドバイスはしますが、『どんな練習をするかはあなたに任せるね』と伝えています。逐一、あれをやりなさい、これはダメなどと言ってしまうと、人任せの選手になる。子どもの頃から『信頼しているよ』というメッセージを伝えることは、結果を出せる選手に育てるうえでも大事ではないかと思います。
私は相談を受けた際、自分の経験を“参考資料”として提示し、最終的な判断は選手自身に委ねるようにしています。それは、保護者に相談された時も同じです。そうして、なぜ子どもにスケートを始めさせたのか、どんな顔を見たかったのかということをちゃんと思い出してもらう、理解してもらうと、変わるきっかけになります。親御さんのなかにも、『いつ離れるべきか』と悩まれている方もたくさんいらっしゃいますから」
小塩「その考えに、とても共感します。保護者の方にも考える機会を作ることは大事ですよね。『離れた方がいい』と無理強いするのではなく、鈴木さんのように経験を参考資料として伝えることは、保護者にとってもいいと思います」
鈴木「はい。親御さんがご自身の人生も大切にされることが、結果的にお子さんの成長につながっていきます。送り迎えはしながらも、あえて練習を見ることは控え、その時間を自分の好きなことに使う。そんなふうに少し距離を取ることで、その姿を見たお子さんが自分で選び取る経験を重ね、自立する力を育んでいきます。すると、自然とさまざまなことが良い方向へと動き始めるのです」
小塩「今の話を伺うと、五輪という大舞台で、リウさんのように“自分らしさ”を大切にしながら結果も残したアスリートが現れたことには、大きな意味があるように感じます。今、IOCがメンタルヘルスやセーフガーディング(選手の安全保護)を重視しているのは、選手をただ守るためだけではありません。安心して競技に取り組める環境、自分の気持ちや体の状態を大切にできる環境があってこそ、選手は本来の力を発揮しやすくなる、という考え方が広がっているからです。
これまでのスポーツ界では、『金メダルを獲る』というゴールに真っすぐ向かうことが強く求められてきました。ただ、そのゴールだけがすべてになってしまうと、結果が出なかった時に自分の価値まで失われたように感じたり、競技を続ける意味が分からなくなったり、燃え尽きに繋がったりすることがあります。だからこそ、競技の結果だけでなく、その人がどう生きたいのか、何を大切にしたいかという視点を持つことが、これからますます大事になってくるのだと思います」
鈴木「金メダルを狙うことがダメと言いたいのではなく、やはりアスリートは競技引退後の人生のほうがずっと長いですからね。自分がワクワクすることを追い求め、人として成長するプロセスのなかに金メダルがあるアリサは、まさに“新時代の金メダリスト”。アリサのような生き方は、これからのアスリートの理想像の一つになるかもしれません。
彼女はこれからもスケートを続けるそうです。ということはスケーターとして、まだまだ表現したいことがあるのでしょう。今後、どんなスケートを見せてくれるのかとても楽しみです」
■鈴木明子 / Akiko Suzuki
1985年3月28日生まれ。愛知県出身。6歳からスケートを始め、00年に15歳で初出場した全日本選手権で4位に入り、脚光を浴びる。東北福祉大入学後に摂食障害を患い、03-04年シーズンは休養。翌シーズンに復帰後は09年全日本選手権2位となり、24歳で初の表彰台。10年バンクーバー五輪8位入賞。以降、12年世界選手権3位、13年全日本選手権優勝などの実績を残し、14年ソチ五輪で2大会連続8位入賞。同年の世界選手権を最後に29歳で現役引退した。現在はプロフィギュアスケーターとして活躍する傍ら、全国で講演活動も行う。
■小塩靖崇 / Yasutaka Ojio
東京大学スポーツ先端科学連携研究機構(UTSSI)特任講師。三重大学医学部看護学科卒業後、病院での臨床経験を経て、東京大学大学院教育研究科にて博士号(教育学)を取得。2017年より国立精神・神経医療研究センターにて、若者のメンタルヘルス教育および研究に従事。健康教育学を専門とし、教育現場やスポーツの場におけるメンタルヘルス教育プログラムの開発、学校教員向けの教科書執筆などに携わっている。また、アスリートと協働で進めるメンタルヘルスプロジェクト『よわいはつよいプロジェクト』に研究の観点から関わっている。近著に『10代を支えるスポーツメンタルケアのはじめ方』(大和書房)、『PDPの教科書―アスリートを支える新しいカタチ』(大修館書店)。
(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)
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