[THE ANSWER] スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト

引退で無職に、13kg減量、兄貴分の死「自分に嘘をついた」 比嘉大吾が別人に変わった苦闘3か月

堤聖也(右)の顔面に左フックを入れた比嘉大吾【写真:中戸川知世】
堤聖也(右)の顔面に左フックを入れた比嘉大吾【写真:中戸川知世】

兄貴分の死去「厳しかったけど…」

 沖縄・宮古工高ボクシング部で先輩だった知念大樹さんが亡くなった。「ボクシングを始めた頃の1年生と3年生。厳しかったけど、東京に来てからもずっとよくしてくれてた」。前所属ジムでも一緒に練習。10代での東京生活で馬が合う兄貴分の存在は貴重だった。

【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら

 大樹さんの父・健次さんは高校時代の監督。「大樹も一緒に連れて行くからな」と会場での応援を約束してくれた。戦う理由が増えた。

 脂肪を蓄えた体は重い。3か月で約13キロの減量。復帰にあたって、野木丈司トレーナーに宣言した。

「自分に嘘をつきます」

 12月2日から本格的に練習再開。きつい、いやだ、楽をしたい。元来のサボり癖を拭い去るため、自分を騙し続ける日々。「人を変える。けど、それってだいぶ難しい」。練習量を今まで以上に増やし、オーバーワークまで心配された。12月27日の試合発表会見。少し引き締まった顔で笑った。「もう、人が変わってますよ。怠け者から“まじめ者”に」。毎日の筋肉痛が心地いい。

 会見で久々に会った王者が刺激をくれた。「打たれ強そうな首をしている。あぁ、やだなぁ……」。アマ時代は2戦2敗。プロでも2020年10月に引き分けた。定期的に食事に行く仲だが、もう連絡は取っていない。

「アイツの性格はわかっている。気持ちが強い。今日も練習がてら走って帰ったんじゃないかな。でも、俺だって人が変わっている。練習しないと」

 野木トレーナーによる地獄の練習。鹿児島・徳之島の強化合宿は、大自然の中を悲鳴を上げながら駆け抜けた。スパーリングは試合よりも長い14ラウンド。「自分に嘘をついてやらないといけない。それが一番きつかった。自分に正直にいることが一番いい」。でも、自分を騙し続けた。「気持ちが途切れないように」。筋トレで70キロのバーベルを振り回す。肉体と心を取り戻していった。

 武居戦の前、厳しい練習を乗り越え「自分に勝つって気持ちいい」と初めて漏らした。今回も同じ感覚。以前は少し苦しくなると、すぐにへたり込んでいた。「負けるなぁ!」。喝を入れる野木トレーナーは目尻にシワを寄せながら言う。

「自分に勝つ、そういう気持ちで毎日練習に向かってきてくれた。そこが一番大事」

 何がそうさせたのか。

「やっぱり本人に欲がある。世界王者と試合をする。『じゃあ一丁、真剣にやってやろう』って。『もう頑張らない』と引退を決めた人間が、自分に嘘をつくと言って頑張った。どこか集中力を欠いた練習と比べると、メンタルが生み出すトレーニング成果は全く異なる。私は、大吾を信じています」

 比嘉は親友と殴り合う準備ができた。「3週間くらいに感じた」と言えるほど濃密な3か月。2018年4月の体重超過による王座剥奪以来、6年10か月ぶりの世界王者へ。計量失敗後は不遇の時を過ごした。実は、堤こそが当時の話に支えられていた。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)

1 2
W-ANS ACADEMY
ポカリスエット ゼリー|ポカリスエット公式サイト|大塚製薬
DAZN
CW-X
MLB
THE ANSWER的「国際女性ウィーク」
N-FADP
#青春のアザーカット
One Rugby関連記事へ
THE ANSWER 取材記者・WEBアシスタント募集