「五輪はいつの時代も政治利用され続ける」 避けられぬ負の歴史に聖地アテネで“恒久開催”のアイデア
政治利用されないために「アテネの恒久開催にすればいい」
――政治に利用されないためにはどうすればいいと舛本さんは考えますか?
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「いつの時代であっても、利用され続けるだろうとは思います。ただ一つ私のほうからアイデアを出すとすれば現在の持ち回り開催制度を止めて、聖地であるアテネの恒久開催にすればいい。そうすれば政治利用されることもない。スタジアム、アリーナといった運動施設は国際オリンピック委員会(IOC)のトップスポンサーによるネーミングライツなどで運営して、大会期間中以外はギリシャ国民が無料で使えるようにする。ただ開催時期は真夏からズラしたほうがいい。
冬季オリンピックも、IOCのお膝元であるローザンヌでの恒久開催にすればいい。冬は広域開催せざるを得ないので、スイス、フランスにまたがって雪上競技、氷上競技を別々にやるほうがいいのではないでしょうか。一方で(15~18歳を参加対象とする)ユースオリンピックこそ世界を回っていく必要があると考えます。若い人たちがオリンピズムを理解し、それを世界各国に広めていくことになると思いますから。
北海道の4市(旭川、富良野、名寄、士別)が2028年冬季ユースオリンピックの招致を検討しているという報道がありました。ただ個人的な意見を申せば、オリンピズムの観点からも夏冬通じて初めて日本にユースオリンピックを招致するなら、やはり広島か長崎でやるべきだとは思いますね。世界の若者たちに広島平和記念資料館、長崎原爆資料館に足を運んでもらえれば、平和希求運動としてははるかにインパクトがありますから」
――さて、今回のパリオリンピックに目を移すとロシア、ベラルーシの選手はIOCから個人資格の中立選手(AIN)という立場での出場になっています。
「2022年の北京冬季オリンピックでは組織的なドーピング違反による処分としてロシアの国内オリンピック委員会(NOC)であるロシアオリンピック委員会(ROC)での参加になりました。その後、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻により、北京のパラリンピックでは出場禁止に。さらにROCは不法に併合するウクライナ東部4州のNOC組織を組み込んだため、IOCはガバナンス違反により資格停止にしました。パリ大会のAINとしての出場は、軍事侵攻ではなく、あくまでガバナンス違反というのがIOCの見解です。ならば(ガバナンス違反ではない)ベラルーシを締め出す理由は何かとなると、私が知る限りIOCはその根拠を示していませんよね」
――また、イスラエルとガザ地区を支配するイスラム組織ハマスの衝突において、パレスチナオリンピック委員会はイスラエルのガザ地区への民間人を含めた攻撃は国際人道法違反であるとして排除を要請したものの、IOCは拒否する姿勢を取りました。
「IOCの主張としては、世界の紛争地域は国連によれば規模の大小を問わず毎年70ほどあって、(イスラエルとハマスの衝突は)その一つであるこということ。イスラエルを締め出すなら、他の当事国も同様にしなきゃいけないと、逃げを打つようなスタンスなのです。民間人の被害者がこれほどまでに出ており、IOCの姿勢はダブルスタンダードだと各方面から批判を受けています」
――ロシアは自らが主導してスポーツの国際大会「フレンドシップ・ゲームズ」を開催する意向だと報じられています。今年9月から来年に延期される方向だとか。IOCはスポーツの政治利用だと批判している、と。
「フレンドシップ・ゲームズについてはかなり危惧しています。IOCを中心としたヨーロッパ主義的なオリンピックムーブメントと、それに対抗するロシアを中心にした勢力が広がっていけば世界の分断が促進されかねない。これからどのように展開していくか注視しなくてはなりません」
(第3回に続く)
(二宮 寿朗 / Toshio Ninomiya)