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30年前のJ開幕戦を見た13歳が鹿島社長に… メルカリが継承した常勝軍団の伝統とベンチャー精神

雨の鹿島サッカースタジアムに佇むジーコ像。そのスピリットは時代を超えてクラブに受け継がれている【写真:宇都宮徹壱】
雨の鹿島サッカースタジアムに佇むジーコ像。そのスピリットは時代を超えてクラブに受け継がれている【写真:宇都宮徹壱】

開幕戦を見た13歳少年が鹿島の社長になるまで

 鹿島アントラーズの発行済株式72.5%のうち、61.6%が日本製鉄およびその子会社からメルカリに譲渡されたのは、2019年7月30日のこと。これを受けてメルカリ会長の小泉は、少年時代の憧れだったクラブの社長に就任することとなる。

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 当初、日本製鉄からメルカリへの親会社変更は、多くのファン・サポーターから好意的に受け止められたと記憶する。そして誰より、メルカリと小泉を歓迎していたのが「常勝軍団」をフットボールと事業の両面で支えてきた、鈴木満と鈴木秀樹。それぞれ「マンさん」「ヒデキさん」と呼ばれてきた両鈴木に、私は3年前の2020年に話を聞いている。

「IT企業出身の経営者を迎えることには、特に不安はなかったです。小泉さんは、アントラーズや地域への理解があるし、フットボールに関して理解も深いですから」

 クラブ立ち上げ当初から、時代を超えてジーコの哲学や精神を伝え続けてきた、当時フットボールダイレクターの「マンさん」の証言である。

 一方、当時マーケティングダイレクターの「ヒデキさん」もこう語っていた。

「時代が変化するなか、BtoBの製造業にスポーツがぶら下がっていることについては、お互いに限界も感じていました。クラブとして自立するか、それとも別のパートナーに託すのか。どちらかを選ばなければならない状況だったんです」

 2018年のACL優勝を最後に、タイトルから遠ざかって久しいクラブに対し、「親会社がメルカリになってから弱くなった」と嘆くファン・サポーターは少なくない。ならば親会社が引き続き日本製鉄で、「マンさん」「ヒデキさん」への依存を続けていれば、強いままでいられたのだろうか。むしろ鹿島にとって一番のリスクは、チャレンジを止めてしまうことであろう。

「もともとアントラーズって、ベンチャー企業なんですよ」というのが、小泉の持論だ。

「30年前にJリーグがスタートした時、アントラーズは本当に人口の小さい町のクラブとして、人口も資本も大きい相手に挑み続けてきました。常に新しいチャレンジを繰り返していかないと、クラブとして生き残ることは難しかっただろうし、チャレンジし続けた結果としてタイトルがあったんだと思います」

 だからこそ、先人たちへのリスペクトは欠かさないし、自分たちのチャレンジもクラブの創業時のマインドに近いという確信が、小泉にはある。

「僕にとってのマンさんやヒデキさんは、ベンチャーの大先輩。僕らはITの企業ですけれど、クラブのスタートアップ時のカルチャーとは、それほどかけ離れてはいないと思っています。それにITを使うことで、アントラーズはもっと良くなるという確信もあります」

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宇都宮 徹壱

1966年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追う取材活動を展開する。W杯取材は98年フランス大会から継続中。2009年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)のほか、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』(カンゼン)、『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)など著書多数。17年から『宇都宮徹壱WM(ウェブマガジン)』を配信している。

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