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「バットマン」宮本恒靖の真実 「ボールが一瞬消える」違和感と空前の“ツネさま”人気

宮本恒靖氏がフェイスガードをつけた時の視野の狭さについて明かした【写真:荒川祐史】
宮本恒靖氏がフェイスガードをつけた時の視野の狭さについて明かした【写真:荒川祐史】

フェイスガードをつけると足下の「ボールが一瞬消える」

 黒のフェイスガードは、宮本のアイコンになった。

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「まぁ、でも、つけたくてつけていたわけじゃないんでね」

 宮本は苦笑するが、それは折れた鼻骨を保護するためのものだった。

 W杯初戦の6日前、大学生との練習試合に出場した時、相手の肘が鼻に入り、鈍い音とともに鼻骨を骨折した。手や足の骨折ではなく、頭の負傷でもなかったことが不幸中の幸いだった。その夜には、フェイスガードを作るために大阪からメーカーのスタッフが宮本のもとを訪れた。

「折れた時は痛かったけど、それ以上に折れた鼻を元の位置に戻す治療が半端なく痛かった。またこうなったら嫌だなと思ったし、つけないとプレーできないと言われたので、すぐに作ってもらいました」

 グラスファイバー製のプロトタイプは白だったが、宮本はそれをマジックで黒に塗り替えた。練習中に装着具合などを確認したが、視界に違和感があった。

「けっこう視野が狭いんですよ。フェイスガードがないと直接ボールを見ていなくても間接視野で見えますけど、つけると消えてしまう。ボールが来た時、コントロールして、周囲の味方を探すけど、ボールが一瞬消えるんで、次のプレーをする時に微妙なタイムラグが生じる。あと、真上に上がったボールも見えにくい。不安はあったけど、これはもう慣れるしかないなと思ってプレーしていました」

 練習中、相手と不意にぶつかって再度折れたり、ヘディングに行く時の怖さはあった。だが、試合に出ることを考えると練習でも鼻をかばって中途半端なプレーなどできなかった。

「練習中に接触すると相当痛かった。強い衝撃を受けると鼻血が出たし、そういうのが3週間ぐらいは続くって言われた。でも、ワールドカップでプレーすることが大事だし、勝つことが重要なんで、戦ってぶつかろうが別にどうなってもいいと思いながらやっていました」

 ベルギー戦も、その決意で宮本はピッチに立った。

 ピッチ内の重たい空気のなか、「落ち着け」と何度も心の中で繰り返した。最初は硬かったが、徐々にほぐれていけばと思っていた。だが、出場してわずか4分後、失点してしまう。オフサイドのアピールをしているなか、ベルギーに2列目からの突破を許し、同点弾を叩きこまれた。ボックス内のオフサイドトラップは崩れると失点の可能性が高まるが、そこを突かれた。

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佐藤 俊

1963年生まれ。青山学院大学経営学部を卒業後、出版社勤務を経て1993年にフリーランスとして独立。W杯や五輪を現地取材するなどサッカーを中心に追いながら、大学駅伝などの陸上競技や卓球、伝統芸能まで幅広く執筆する。『箱根0区を駆ける者たち』(幻冬舎)、『学ぶ人 宮本恒靖』(文藝春秋)、『越境フットボーラー』(角川書店)、『箱根奪取』(集英社)など著書多数。2019年からは自ら本格的にマラソンを始め、記録更新を追い求めている。

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