「フィギュア選手とメイク」の奥深き世界 演者へと切り替える“職人”のこだわり
“テレビ映え”もこだわりの一つ
「赤いリップ一つとっても、真っ赤なのか青みがかっているかなど、トレンドにより異なります。過去にはつけまつ毛を使用したときもありましたし、眉毛の形も時代、時代で変わっていますよ」
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
スケーターの好みの流行でいえば、最近ではナチュラルなメイクが好まれるという。また、近年、大きな大会は必ずといっていいほどテレビ中継があるため、テレビで映えるメイクか、大会の会場で映えるメイクかの選択も、デザインを決めるうえで重要になる。
「個人的には装飾的なメイクが好きなので、プログラムにはまるようであれば提案します。歴代の選手でいうと本郷理華さん、鈴木明子さんは、強いメイクを提案しても、そのまま受け入れてくれるタイプでした。なかでも本郷さんの2015-16年シーズンのプログラム「インカンテーション(シルク・ドゥ・ソレイユ『キダム』より)」のメイクは印象に残っています。
ただし、この仕事は私がよいと思うメイクではなく、選手が納得するメイクをすることが最も大切です。プログラムに対する選手のこだわりを最優先に考え、選手らがイメージする以上に、表現力や世界観を高める提案をするのが我々の仕事ですから」
メイクの仕上がりは選手のモチベーションを左右する。演技直前、直接触れ合うなか、石井さんが心掛けるのは「正直さ」だという。
「メイクブースは一人30分でヘアとメイクを仕上げるためバタバタしています。目の造形や骨格に合わせた左右バランス、発色、グラデーションなど、イメージに合わせて作り込みます。ただ、時間が足りない場合もあります。その際、自分自身が納得できない場合はそのままにしません。
『ごめん、このラインの角度納得いかないから、出番まで5分あったら戻ってきて』と最後までこだわるようにしています。メイクをされる側は『これはちょっと違うな』と思っても正直に言えないこともある。その気持ちを汲み取って、しっかりフォローすることが、信頼関係につながるのかなと思います」
かつて選手がほとんど訪れなかったメイクブースは今や、演技前の選手にとっての憩いの場になっている。
「選手たちは本番前も控室ではなくメイクブースにやってきて、コスメを見たり、ネイルを塗ったり、メイクアップのスタッフとコミュニケーションを取りつつ、過ごしています。そのまま、元気に明るく、氷上に飛び出していく姿を見ると、メイクだけでなくマインドのうえでもケアできる空間になっているかなと思いますね」