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米国のスポーツと暴力、命を脅かす一面も 全米の審判13%は「襲撃を受けた経験あり」

日本の「スポーツと暴力」の問題とは異なる特徴

 今、米国ではあちらこちらで審判不足に悩んでいるというニュースが発信されている。子どものスポーツや学校運動部の試合でジャッジをする審判にはわずかながら報酬が支払われるが、観客、コーチ、選手から罵られ、時には殴られるほどの危険な目に遭うのだったら、引き受けるのはごめんだと思うのは当然のことだろう。

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 先に取り上げたように、明らかな暴力は暴行罪として罪に問われている。また、いくつかの州では、審判を暴言、ハラスメント、攻撃から守るための法律もできている。今回、議員による愚行があったテネシー州でも、審判への身体的接触を犯罪とする法案が提出されたという。

 日本ではスポーツと暴力の問題というと、指導者から選手への体罰の問題が真っ先に挙げられる。米国でも指導者が選手を虐待したり、性的虐待したりしている問題は起こっている。しかし、米国におけるスポーツと暴力の問題は、指導者から選手というチーム内での虐待や暴力だけでなく、このような審判への暴力や、対戦相手への暴力、観客間の暴力も多く起こっている。2002年には、子どものスポーツの練習内容を巡って、保護者がコーチ役をしていた別の保護者を殴り殺す事件があった。

 正確なデータは見つけられなかったので、あくまで私の印象でしかないが、日本ではチーム内で体罰や脅しが起こりやすいのに対し、米国ではチーム外の審判や対戦相手に対して直接的な暴力が起こりやすいのではないかと感じている。

 2014年には、私の住んでいる近くの街でアマチュアの大人のサッカーを審判していた人が殴り殺される事件があった。亡くなった審判には、私の子どもと同学年の子どもがいたため、知り合いの知り合いという近さの人だった。何年か前の地元紙には、亡くなった審判の2人の息子が、それぞれアイスホッケー、サッカーの審判を始めたという記事が出た。父を亡くした若い彼らはもちろんのこと、全ての審判に敬意が払われ、彼らの心身が暴言や暴行から守られるようにと願う。

(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)

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谷口 輝世子

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。近著に『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか――米国発スポーツ・ペアレンティングのすすめ』(生活書院)ほか、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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