東京五輪7人制ラグビー惨敗のワケ 今だから検証したい指導者人事とそのタイミング
東京2020で、前回リオは4位と躍進した7人制ラグビーの男子日本代表は、なぜメダルに届かなかったのか。総括会見からその原因と理由を読み解き、3年後に迫るパリ五輪への課題を検証する後編。今回は、リオ五輪でチームを躍動させた瀬川智広・元ヘッドコーチ(HC)の思い、聞こえてくる選手の本音も交えながら、強化体制の問題点と再建への道筋を考える。(文=吉田宏)
吉田宏記者のコラム、3年後のパリ五輪へ課題を検証・後編
東京2020で、前回リオは4位と躍進した7人制ラグビーの男子日本代表は、なぜメダルに届かなかったのか。総括会見からその原因と理由を読み解き、3年後に迫るパリ五輪への課題を検証する後編。今回は、リオ五輪でチームを躍動させた瀬川智広・元ヘッドコーチ(HC)の思い、聞こえてくる選手の本音も交えながら、強化体制の問題点と再建への道筋を考える。(文=吉田宏)
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
◇ ◇ ◇
東京五輪での男子代表のパフォ―マンスを、チーム外部のラグビー関係者はどう見ていたのだろうか。匿名を条件に取材に応じてくれた、7人制の指導実績があり、トップリーグでの経験も持つあるコーチに聞いてみた。
「初戦から、選手の動きは決して良くなかった印象だ。コンディショニングで上手くいってなかったのかも知れない。簡単に防御を崩される場面もあったのに、何故、防御の面でも経験値を積んできた印象のある合谷(和弘)をあまり使わずに、防御の弱い選手を起用したのか。運動量の高さが期待されたヘンリー・ブラッキンを、もう少し積極的に起用しても良かったのではないか」
8月11日の総括会見で7人制男子日本代表HCを退任した岩渕健輔氏は、五輪本番での戦い方、つまり自らの采配面でも「保守的になってしまった」と悔やんでいたのだが、この匿名コーチが指摘する選手起用の部分も踏まえての発言だったのだろうか。オンライン会見の弊害で、このような詳細なやり取り、確認ができなかったのは残念だ。
リオ五輪以前から7人制代表の取材を続けてきた中で、今回の東京大会への挑戦の過程で残念だったことがある。指導者人事とそのタイミングだ。「メダルを獲る」という大義で、リオ直後に招かれたのはダミアン・カラウナ氏。7人制ニュージーランド代表選手であり、同代表スタッフの経験も持つ。宗像サニックスでのプレー経験も含めて白羽の矢が立った。
カラウナHC時代の代表強化を取材していると、戦力の発掘など選手選考の部分で苦労している印象が強かった。例えば前任の瀬川智広氏のように、長らく国内リーグの指導経験があれば、自らの知見を基に国内各チームの中から7人制に適した選手を見つけることはそう難しいことではなかったはずだ。他チームのコーチらとの人脈も生かせただろう。
しかし、日本でプレー経験はあってもニュージーランド人のカラウナ氏中心のコーチ陣で、国内隅々まで選手選考の情報網を張り巡らせることが容易ではないのは、就任前から明らかだった。取材する立場で当時思ったのは、日本人のトップリーグチーム関係者などを代表スタッフやアドバイザーに加えて、より多くの選手情報を代表チームが吸い上げるシステムが必要だということだった。
さらに残念だったのは、カラウナHCの下でワールドシリーズ昇格大会を優勝するなど、ようやくチームが戦闘能力を高めてきたと感じた就任2年目で、岩渕HCに交代したことだ。理由は「契約任期の終了」と「チームや企業のこと、日本人選手のことをより理解出来る日本人のHCが相応しい」(坂本典幸専務理事、当時)というものだった。
この交代劇は、カラウナ氏にとってもだが、後任の岩渕HCにとっても難しいものだったはずだ。東京五輪まで当時は2年しか残されていないという段階で、初めて代表HCという大役を託され、母国開催の祭典でメダル獲得が求められたのだ。選手、強化担当者としての実績と経験はあっても、五輪までに残された時間が、HCとして絶対に負けられない修羅場を勝ち抜くための経験を積み上げるためには十分ではなかったことは、岩渕HCの「クリティカルなところでチャレンジできなかったことに大きな責任を感じている」という発言からも読み取ることが出来るのではないだろうか。