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現役中に子宮内膜症「復帰できても競技は…」 選手として室伏由佳が悩んだ手術の決断

北京五輪翌年に子宮内膜症が判明、選手として女性として悩んだ手術の決断

 迎えた五輪の舞台。室伏さんは自身の納得のいくレベルの記録を投擲したものの、予選敗退でアテネを後にした。

「副作用ですごい調子が悪かった直前の大会で、日本記録を更新できただけに、『調子の良しあしを、ピルのせいにはできない』と思い、むしろ自信が出ました。

ピルの服用をしなかったとしても、記録をさらに伸ばせたかどうかは、わかりません。ただ、伸び盛りだっただけに、もうちょっと気持ちよく、質のいい練習ができたのかなと、悔やまれます」

 五輪出場の後は、腰痛症が悪化。その痛みから日常生活にも支障をきたし、練習を積むことができなくなった。08年北京五輪出場を逃した室伏さんは、まさに満身創痍の体で次のロンドン五輪シーズンに突入する。

 そして、09年3月、今度は過去に経験したことのないほどの激しい痛みが下腹部に走る。救急外来で検査をすると、子宮内膜症と診断された。

「ポリープの問題は片付いたのに……と思いました。気づかないうちに病気が進行し、卵巣にできた嚢胞(チョコレート嚢胞)がどんどん大きくなって、破裂してしまった。まさにサイレントキラーですよね」

「まずは、低用量ピルを用いてホルモンの影響を抑え、腫瘍を縮めましょう」。そう当時の主治医から告げられ、09年4月からの半年間、低用量ピルによる投薬治療を継続した。しかし、残念ながら腫瘍は縮まなかった。

「長期間チョコレート嚢胞を保持していると、癌にも進展する可能性もある」。医者の診断を聞き、腹腔鏡での摘出を、覚悟を持って、決めた。

「手術を受けるかどうするか、アスリートとしてどう判断すればよいのか。当時は、そのために必要な情報が全くありませんでした。人づてに紹介してもらい、やっとウィンタースポーツの選手を手術した経験を持つ婦人科のスポーツドクターと電話で相談することが出来ました。そのドクターには、担当された選手がどのように術後復帰し、トレーニングはいつ、何からできたかという話も伺いました。

 とはいえ、術後の経過は、個人差があり同じようにはならない。実際に、どうなっちゃうのだろう。復帰出来たとしても、今までのように競技活動ができなくなったらどうしよう……。手術をしなければならない状況だとわかってはいても、不安ばかりでした」

「このままの状態でいても人生にも、競技に影響する。私は一生の体なんだから、まずは健康を優先しよう。治して、もう1回、競技に取り組もう」。手術を決めたのは、自分のなかでそう、着地点を見つけられたときだった。

「病態から、絶対に手術をしなければダメだ、というケースもあると思いますが、私の場合は服薬による副作用もあり、根治を目指すことが一番の選択だと考えました。最後に決めるのは自分でしかない。コーチである父や兄からも『健康を取り戻すために、手術をしたほうがいい』と後押しされ、自分でも決断できました。『先生、腫瘍は縮められても服薬ではなくならない、もう取ってください』と伝えました」

 09年11月末日、腹腔鏡による両側チョコレート嚢胞摘出術は無事成功。術後はリハビリから練習復帰までのトレーニングメニューを、自分で考え、組み立てた。というのも、婦人科の術後から競技復帰までの手順やその情報も全くなかったからだ。

「婦人科のオペの後には整形外科のようにリハビリテーションのプログラムがありません。情報が乏しい中、トレーニングの内容を選択するのにも時間がかかりましたし、術後の痛みや違和感、不調から、半年ぐらいは練習をうまく積むことが出来ませんでした」

 独自のメニューでリハビリとトレーニング、練習を重ね、翌2010年のシーズンには競技会に復帰。同年の広州アジア大会出場を決め、女子ハンマー投げでは銅メダルを獲得した。

「6月の代表選考会に何とか間に合った」と室伏さんは笑う。だが、手術から約1年後に銅メダルである。その復活劇は、驚異的と言えるのではないか。

「まあ、本当に1年がかりでしたし……(笑)。それに、30代になって体力が落ちていったこともあり、その後も元の状態にはほとんど戻らなかったですね。選手としては、艱難辛苦の経験でしたが、子宮内膜症は癌に進展する可能性もありましたし、競技引退後も続く人生を考えれば、あの時、手術をして本当に良かったなと思います」

 そして、2012年9月。35歳の室伏さんは、全日本実業団陸上を最後に、引退した。

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長島 恭子

編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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