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リーグワン復活Vの陰に東京伝統の呑み会文化 盃を交わし、クラブを愛した王国NZ司令塔の真髄

復活Vを果たしたBL東京、モウンガには母国NZで帰国待望論が渦巻いている【写真:矢口亨】
復活Vを果たしたBL東京、モウンガには母国NZで帰国待望論が渦巻いている【写真:矢口亨】

母国NZで渦巻く帰国待望論 同僚リーチは「リッチーはBL東京だけしか考えていない」

 総反則数はBL東京11、埼玉WK8と敗者の方が少なかった。だが前半は、反則が課題だったBL東京が4だったのに対して埼玉WKは6。前回の対戦とは対照的にBL東京は反則を極力犯さない忍耐強い戦いを続け、失点も2PGによる6点に抑えた。埼玉のスコアも、東京がマークした10点も、すべて反則を起点に奪っているのだが、敗者のディーンズ監督は「前半は互いに重圧を掛け合う展開ではあったが、BL東京にリターン(得るもの)が大きかった。それが結果的に差を生み出してしまった」と振り返る。

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 わずか4点差という接戦ながら、相手に自分たちの反則による得点機を与えなかった東京のディシプリンの改善が、3月の対戦とは真逆の結末をもたらした。しかも、前半終了直前のシン・ビン(10分間の一時退場)で埼玉WKが14人の戦いを強いられていた後半5分にBL東京がしっかりと7点を奪ったことも、4点差という最終スコアに繋がった。2か月前は自分たちの反則が致命傷になったチームは、今度は相手に致命的な反則を犯させて頂点に登り詰めた。

 堀江のパスの50cmが明暗を分けたほどの死闘を繰り広げたことからも判るとおり、この2チームの実力はほぼ互角と考えていいだろう。もちろん別のアングルから考えると、3月には敗れたBL東京が、シーズン最後に埼玉WKに肩を並べ、死闘を凌ぎ切ったのも事実だ。この2チームだけではなく、準決勝で埼玉に17-20と迫った横浜E、BL東京に20-28と渡り合った東京SGと、トップ4チームの実力は、その順位別賞金(5000-500万円)以上の近似値にあることも間違いない。

 そんな混戦の様相をみせる上位争いで、モウンガは来季へ向けたチームのあるべき姿についても語っている。連覇と同時に常勝軍団というポストを築き上げていくことがミッションになるが、クルセイダーズで6連覇を果たした経験値から、こう語っている。

「今年は戦う中でいいバランスを見つけられたかなと思います。でも、当然もっとよくできる部分はあると思います。来季は今年より良くなる部分があるはずです。だからチームは変わらないといけない。同じことをしているだけで2シーズン続けて勝てるチームはないからです。クルセイダーズは毎年進化し続けてきました。大切なことは、固定概念を取り払い、何か新しいものを創造していくことです。今季は勝ちましたが、またチャレンジになります。ここで満足して1回のタイトルだけでいいのか、もっと勝ちたいのか。それはチームの全員にかかっています」

 一度の勝利に満足せず、もっと強くなりたい、来季も勝ちたいという思いを、選手、スタッフ1人ひとりがどこまで持ち続けることが出来るかが、クルセイダーズを勝ち続けるチームに鍛え上げた。モウンガの話を聞きながら、数年前に聞いた言葉が頭の中に浮かんできた。

 Strive for Victory

 簡単に訳せば「勝利のために懸命に努力する」という意味だが、この言葉を聞いたのは、元オールブラックスSHのアンドリュー・エリスからだった。モウンガと同じクルセイダーズのOBでNZ代表の2011年W杯優勝メンバーが、神戸在籍時の単独インタビューで語っていた言葉だ。代表でプレーする時でも、選手間、コーチ、スタッフとの会話で何度も使われていたと聞いた。そんな、シンプルに、なおかつ成功を収めてもさらなる勝利を追求するために努力を続ける姿勢が、NZラグビー、そしてクルセイダーズというクラブに脈々と継承されている。

 モウンガのBL東京での契約は3年だが、すでに母国NZからは帰国を切望する声が日々発信されている。モウンガの母国では、海外クラブでプレーする選手は代表に選ばれないルールがある。しかし、昨季までクルセイダーズでコーチ、選手としてモウンガと共に戦ってきたスコット・ロバートソンがオールブラックス監督に就任したことで、代表復帰を切望する熱量は高まり続けている。

 現地報道ではBL東京との契約内容を変えなければ帰国は難しいという「但し書き」にも触れてはいるが、それを反故にしてもモウンガを取り戻したいという機運を、協会、メディアが情報操作しているようにもみえる。それに対してリーチマイケルは「リッチーはBL東京だけしか考えていなくて、向こうが言っているだけ。帰りたいという気持ちは聞いていないし、長くこのチームにいてほしい」と“雑音”を遮断する。

 モウンガ自身が指摘するように、BL東京が勝ち続けるためには、全員が今季以上に成熟することが不可欠だ。その中で、選手という素材を美味い“料理”に仕上げる10番を背負ったシェフがいなければ、今季を越えるメニューは味わえないはずだ。

(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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