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「早慶明だけがラグビーじゃない」 名将・春口廣、関東学院大を黄金期に導いた雑草魂と反骨心

5軍、6軍の選手にも注いだ温かい眼差し

 一見すると、いつも冗談を言い合うようなチームだったが、反骨心を力に替えて、選手個々が努力を惜しまず、チーム内の争いを勝ち抜くタフさを身につけ、対外試合でも無敵のチームを築き上げる――こんな強化のシステムを創り上げて、学生と一緒に大学王者へと駆け上がっていった。レギュラークラス以外の選手にも、しっかりと挑戦することの大切さを語り、諭してきたことが、トップ選手だけではなく全部員で戦い、挑戦する集団を創り上げた。チームの中では5軍、6軍にあたるような選手にも愛情を注ぐ指導者の眼差しは、練習前の出来事から強く感じられることがあった。

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 練習のために講義が終わった選手がグラウンドに集まり始めていた時だった。ほとんど試合で見たことがないような小柄な部員が、春口監督の横を通り過ぎようとすると、指揮官がこう声をかけた。

「おい、〇〇! この前の日曜の夜に、あそこのいかがわしいホテルに女の子と入っていったのはお前じゃないの?」

 選手をからかったのだが、“因縁”をつけられた選手が「俺じゃないっすよ」と返していた時の笑顔には嬉しさが滲んでいた。指導者が強いチームを維持するには、エリート選手を鍛えることが重要なのは明らかだ。だが、この名将は、どんなに頑張ってもレギュラーには届かないような部員たちも忘れていないというメッセージを、日々の冗談や会話の中で発進し続けている。前編でも紹介したチームが家族のような一体感を持てたのは、こんな日常のちょっとした監督と選手との接点の積み重ねも大きく影響したはずだ。横浜TKMの監督就任会見で指揮官は、チーム作りに欠かせないものを語っている。

「ラグビーの基本。これは仲間作り。ラグビーは1人ではできない。だから必ず仲間を作る。どういう仲間を作るかが大切なことだと思うんですよね。いい仲間作りをしようということ。これが私のラグビーの目標です」

 ここに、関東学院大・黄金時代の欠かせないエッセンスがある。

 もちろん、レギュラーチームの選手たちの磨き込みもバージョンアップを怠らなかった。コーチングでは、チームが強豪になる以前からニュージーランド人コーチの故バフ・ミルナーを招き、選手にラグビー王国のスキルや戦術を学ばせた。学生王座を獲得してからもニュージーランド代表で長らくスクラム指導を担ったマイク・クロンに定期的に指導を頼むなど、当時では異例の海外トップクラスのコーチングをチームに落とし込んだ。総芝3面を取れる練習グラウンドも含めて、当時は社会人チームでも羨むような強化環境を作り上げた。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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