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吉田麻也と国歌斉唱で話題 車いすの中大サッカー部員・持田温紀がW杯で体験した奇跡の日々

持田温紀さんは「UNIVAS AWARDS 2022-23」でサポーティングスタッフ・オブ・ザ・イヤー最優秀賞を受賞した【写真:大学スポーツ協会提供】
持田温紀さんは「UNIVAS AWARDS 2022-23」でサポーティングスタッフ・オブ・ザ・イヤー最優秀賞を受賞した【写真:大学スポーツ協会提供】

車いすになって5年の日に起きた奇跡

 もっともこの時点ではチケットも購入しておらず、実現度は低いものだった。だが、「四方さんから時々連絡をもらううちに、せっかくの機会だしやっぱり行くしかないかな」と思うようになり、開幕1か月前にチケットを入手。11月に入ってカタール行きを決意すると、飛行機を慌てて予約して4日前になんとか確保した。

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「お金も自分の貯金では全然足りなかったので、行くって決めてから家族や知人にお願いをしたり、アルバイト先の協力で現地から記事を書く代わりにお金をもらったり。現地で仲良くなった日本人の方が一緒にヴィラに泊めて下さったりもして、宿泊料金が意外と安く収まって、結局20日間ぐらいカタールに滞在できたんです」

 サッカー部はちょうどシーズンが終了したタイミングだったため、事業本部の活動に支障が出ることはほとんどなかった。一方、学業のほうは、まだ授業がある時期。あまりにも急展開でのカタール行きだったため、事前にゼミの先生などに伝えることができず、現地からメールで提出物を出すこともあったという。それでも中大サッカー部への入部を後押ししてくれた渡辺岳夫教授をはじめ、「背中を押してくれる先生が多かった」という。

 こうして1人でカタールに向かった持田さんは、11月23日、日本がドイツに2-1で勝利した歴史的な瞬間をゴール裏の観客席で目撃した。

「僕がいたエリアは日本人の方がまったくいなくて、周りは現地の人ばかりでした。たぶん、みんなドイツ代表の選手を観に来たような雰囲気だったんですが、時間が経つごとに日本のジャイアントキリングを期待するような熱気に包まれてきて。試合後、興奮した彼らがどうしても日本人と一緒に写真を撮りたいと僕のところに来て、代わりばんこに撮りました」

 日本サッカー界にとっての歴史的な1勝を目の当たりにしただけでなく、まさにW杯と言える国際交流を初戦から体感できたことは、何ものにも代えがたい喜びだった。カタールに来て良かった――初戦から充実感を感じていた持田さんだったが、続くコスタリカ戦から、それを上回る“奇跡”が次々と起こっていく。

 11月27日のコスタリカ戦。スタンドの車いす席に到着し、普段通りに試合開始を待っているとFIFAのスタッフから「あなたを試合前のセレモニーに招待します」と声をかけられた。

「本当に唐突だったんです。僕は何かのプログラムに事前に応募していたとかではなくて、スタジアムに着いたら突然声をかけられたんです。今回、FIFAが車いすの方をピッチに招待する取り組みをやっていたことも、声をかけられてから初めて知りました。コスタリカ戦の時、たぶん車いすで現地に行っていた日本人は僕だけだったと思うのですが、声をかけられた時は『Really!?』って叫びましたよ」

 試合開始前、スタッフに連れられて選手が入場して来るすぐ脇のタッチラインに並んだ。W杯のピッチ上に初めて入り、戦いに挑む日本代表選手の国歌斉唱を向かい合うようにして見た。日本を出発する時点では考えられなかったような光景。実は5年前の11月27日は、持田さんの車いす生活が始まった日だった。

「ちょうど5年前に車いすになったけれど、いろいろな人に支えられワールドカップまで来ることができたと噛み締めながらスタジアムに行っていたんです。そうしたら、まさかこんな奇跡が起こるなんて……」

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