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世界的サッカー選手に育てた“母の言葉” メッシ、エムバペも抱く絶対的な愛情と信頼

スペインサッカーに精通し、数々のトップアスリートの生き様を描いてきたスポーツライターの小宮良之氏が、「育成論」をテーマにしたコラムを「THE ANSWER」に寄稿。世界で“差を生む”サッカー選手は、どんな指導環境や文化的背景から生まれてくるのか。今回のテーマは、母親の存在が選手に与える影響について。時には去就問題の結末も左右してきた母子の絆を、世界的名手の事例とともに紹介する。

キリアン・エムバペ(左)と元ハンドボール選手だった母のファイザ・ラマリさん【写真:Getty Images】
キリアン・エムバペ(左)と元ハンドボール選手だった母のファイザ・ラマリさん【写真:Getty Images】

連載「世界で“差を生む”サッカー育成論」:母親の存在が選手に与える影響

 スペインサッカーに精通し、数々のトップアスリートの生き様を描いてきたスポーツライターの小宮良之氏が、「育成論」をテーマにしたコラムを「THE ANSWER」に寄稿。世界で“差を生む”サッカー選手は、どんな指導環境や文化的背景から生まれてくるのか。今回のテーマは、母親の存在が選手に与える影響について。時には去就問題の結末も左右してきた母子の絆を、世界的名手の事例とともに紹介する。

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「すべては母のために」

 欧州や南米の選手たちは、少しの衒いもなく母への思いを口にする。絶対的な愛情と信頼というのか。深く愛されることによって、サッカーに専念することができたのかもしれない。

 その裏返しで、サッカーのピッチでは罵る言葉に、しばしば「母」を用いる。日本語では「お前の母さんでべそ」のようなものだが、それはかわいいもので、「売春婦の母」を応用した適切ではない言葉が飛び交う。母は神聖なもので、他人に踏み入らせたくないだけに、そこを挑発するのだ。

 2006年のドイツ・ワールドカップ(W杯)決勝、冷静沈着で穏やかなフランスのジネディーヌ・ジダンが、イタリアのマルコ・マテラッツィに頭突きを食らわせ、退場処分を受けた事件があった。チームは10人となり、最悪の事態だった。しかしジダンは衝動を抑えられなかったという。当時、体調が悪かった母を看病していた姉に対し、「娼婦のほうがお前の姉よりまし」と侮辱を受け、感情の昂ぶりを抑えられなくなった。

「母のことを自分は心配した。姉が必死に看病しているのは知っていて……いつもなら、あのような行動に出ないがナーバスになっていた」

 ジダンがこう振り返っているように、卑猥な表現に心を乱されてしまった。

 ピッチ内でのこうしたやりとりは、実は日常茶飯事である。とりわけ、マークをしているディフェンスとアタッカーの間では、様々な駆け引きがあって、怒らせたほうが勝ちである。心理戦もプロフェッショナルでは、重要な要素なのだ。

 怒ったら負けだが、頭で分かっていても感情は抑えきれない。

 有力なサッカー選手の多くが、日本的に言えば「マザコン」なのだ。

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小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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