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サッカー選手と「エゴ」の強さ “劇場的成功型”の本田圭佑、バルサ去った逸材との違い

欲に引っ張られ飛躍した本田圭佑の例

 結局、モリバは移籍先のブンデスリーガ、RBライプツィヒでカップ戦も含めて一度も先発出場に恵まれず、今年1月にバレンシアに移籍した。移籍直後は先発出場をしていたが、マジョルカ戦は途中出場で退場の憂き目に遭った。評価は下がる一方で、まるでチームにフィットすることができていない。

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 合理的で効率的な選択をしたのかもしれないが、“不義を働いた”モリバは自らを追い込んでしまったのか。

 サッカー選手として、一番大事なのはコミュニケーションと言える。その土台は人へのリスペクト、共闘精神にある、その表現が堅苦しいなら、仲間への愛情だろうか。

 モリバはチームメートに「移籍はバルサでポジションをつかみ、ひとかどの選手になってからでも遅くない。お前が必要なんだ」と引き留められたという。しかし代理人に唆され、聞く耳を持たなかった。自分の利益だけを優先させ、チームのことなどどうでも良かったのだ。

 もっとも、モリバを欲に釣られる選手にしてしまったのは、大人たちとも言える。

 ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長時代、クラブはなんの戦略もなく、注目される若手には要求されるまま、大金を与えてきた。有望な選手を甘えさせた挙句、プロになって法外な要求をされ、逃げられてしまった。言わば、子供を躾けられず、甘えさせ、なめられ、捨てられてしまったのである。

 では、選手は品行方正が求められるのか。

 自我の強さは、選手が大成するのに味方になるケースもあるだけに、簡単には是非がつけられない。一面的には自分勝手にも捉えられるが、行動に実績を伴わせることによって周囲を納得させ、自らの道を作る。欲に釣られるのではなく、欲に引っ張られるタイプもいる。

「僕は特に環境先行型の選手なので、自分よりレベルの高いところでやることでいろんなことを吸収してきました」

 2010、14、18年と3度のワールドカップを日本代表として戦った本田圭佑の言葉である。彼は自分の中にもう1人の自分を作って突き進むようで、言わば“劇場的成功型”と解釈できる。これはCSKAモスクワ時代、日本人初のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)ベスト8に進出を決めた後のコメントだが、自分に重圧をかけ、それによって心身を鍛えているようだった。

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小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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