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ラグビー日本代表、5-60完敗の真相 アイルランドで“ダブリンの屈辱”はなぜ起きたか

予想外だったアイルランドの戦い方、横幅一杯に攻撃を展開

 開始3分36秒で奪われたアイルランドの先制トライは、新しいアイルランドのラグビーと日本の2つの課題から生み出された。日本がラインアウトの失敗で攻撃権を手渡し、グラウンド中央付近へのハイパントからの逆襲を起点にインゴールをこじ開けられた。2週間前のオーストラリア戦でも、結果的に3トライを奪われたハイパントだが、キックの選択以上に問題なのは、蹴ったボールを追って競り合い、捕球した相手をどう防御するかという課題が修正されていなかったことだ。CTB中村亮土(サントリー)は、こう振り返った。

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「キックの使い方が悪かったわけではなかったが、その後のプレッシャーをかけるところで、アイルランドの非常にフィジカルなアタックが想定外だった」

 SO田村優(キヤノン)の蹴ったパントがワンバウンドしても、日本の選手は落下地点に辿り着けず、アイルランドはプレッシャーを受けずに余裕を持って捕球している。そして、ボールと選手の足を常に動かし続けるような、スピードに乗った連続攻撃で左サイドを崩してトライをマークしている。密集からの球出しのテンポの速さに、日本が防御ラインを十分敷ききれなかったのが直接の原因だった。

 アイルランドの“異変”は、続く11分のトライでさらにあからさまになる。中盤でボールを手にすると、グラウンドの横幅70メートル一杯にBKラインを広げて攻撃を仕掛けたのだ。対応するために日本も防御ラインを広く敷いたところで、薄まった中央付近を、この試合が代表100キャップのSOジョナサン・セクストンに破られ、ラックから素早く大外に振られて仕留められた。

 ボールを常に動かし、選手も足を止めずに攻撃し続ける。本来なら、パワー勝負になる「点」での争いを避け「線」でゲームを進める日本がやるべきスタイルを、この日は相手チームに見事に演じられた。勝者はマークした9トライ中4本ずつをWTBとその他のBKで奪い、FWでのトライは1本だった。

 このアイルランドの戦い方が予想外だったことは、試合前のジョセフHCの言葉からも明白だ。所属するパナソニックではCTBでプレーするディラン・ライリーをWTBで起用した理由を、同HCは「(ライリーは)ハイボールの捕球技術が高い。今回の試合では(アイルランドの)キックが沢山あると予測しているのでBKスリー(WTB、FB)にプレッシャーがかかってくると思う」と語っている。もちろん、7月の対戦も含めて、ここまでのアイルランドのゲームスタイルを考えれば適切な判断だった。だが、アイルランドを率いるアンディ・ファレルHCは、キックではなく冒険的とも言えるグラウンドを広く使い、積極的に選手とボールが動き続けるラグビーを準備してきた。

 フランスでプレーするFB松島幸太朗(クレルモン・オーヴェルニュ)も、試合後に「キックしてくることを予想していたが、真逆のことをしてきた。そこにプレッシャーを与えることができなかった」と予想外の展開だったことを認めている。情報や分析が日々進化するトップレベルのラグビーで、ここまで対戦相手が想定外の戦い方をしてくるのも異例だが、試合準備に情報を重視するがための副作用にも思える展開だった。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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