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ラグビー日本代表、欧州遠征の見所 司令塔は誰に、“ポスト福岡堅樹”争いも熾烈 

19歳で大抜擢されたワーナー・ディアンズのポテンシャルは?

 WTBに視点を戻すと、松島自身はフランスでもプレーするFBを希望しているが、現時点でFBには山中というカードも用意されている。実際、夏の遠征では山中がライオンズ戦、松島がアイルランド戦と先発で起用されている。安定感のあるFBを求めるのであれば、サイズとキック力を併せ持つ山中という選択肢もあるため、松島のスピードをWTBで生かそうという布陣もあるだろう。どのようなWTBの組み合わせでオーストラリア、アイルランドら強豪に挑むのか、そして藤井Dが「テストマッチを、すべての選手に経験させるために1つランクを下げた相手とやりたい思いはずっとあった」と位置付けるポルトガル戦では、誰をテストするかも今後のメンバーセレクションのヒントになるだろう。

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 冒頭にも指摘したように、夏の代表メンバーからの継続を印象づける布陣となった39人。将来性という期待感はNDSの5人に向けられることになる。練習生扱いのメンバーながら、藤井Dが合宿中の正規スコッド昇格の可能性について「本人たちにも伝えている」と説明するように、36人前後に絞り込まれる欧州遠征へのチャンスも微かではあるが残されている。

 おそらくジョセフHCの頭の中では、欧州行きのチケットを渡す顔ぶれは、すでに決まっているだろう。NDS組が航空券を奪い獲るには、“内定組”の怪我や不調、そして本人たちが首脳陣の期待を遥かに上回るパフォーマンスを見せるしかないはずだが、5人の原石はそれぞれ異なるレベルでダイアモンドに化ける可能性を持っている。

 最もテストマッチに近い存在は、春、夏に代表スコッドでプレーした中野将伍(サントリー)。サイズを生かした力強いラン、オフロードパスという武器に、自らトライを獲る嗅覚もある。中野に負けないポテンシャルをTLでも残しているのがHO武井日向(リコー)、FL福井翔太(パナソニック)の2人だ。

 武井はフィールドプレーでの姿勢の低さを武器にしたタックル、ジャッカル、そして1つのプレーから次のプレーへと転じるワークレートの高さと、大卒1年目とは思えないスタンダ―ドを見せてきた。福井も、ユース代表でWTBでもプレーするスピードに、昨季はフィジカル面でもTLで戦える力強さも見せてきた。そして、PR淺岡俊亮(トヨタ)は国際規格のサイズと機動力で将来性をアピールする。そこに、19歳のワーナー・ディアンズ(東芝)が大抜擢されている。

 1年前の花園では、千葉・流通経大柏高でプレーしていた。今春入団した東芝で公式戦を経験する前にNDS入りを果たしている。最大の魅力は社会人リーグでも多くはない202センチの長身。藤井Dも選考理由を「まずはサイズが大きい選手だということ。あのサイズは代表の中でもいない。将来代表に絡んでくる選手だと思うので、早い時期に召集していろいろな経験積んでいってもらいたい」と明言する。高校時代は、圧倒的な高さの一方で線の細さを感じたが、3年間で体の厚みも増してきた。トップチームの強化環境で、さらにボリュームを付ければ世界への道も見えてくる。

 花園での活躍を見てきた中で、サイズとは別に可能性を感じさせたのが、ひたむきに体を張るプレーでの成長だ。何度も密集に頭を突っ込み相手に重圧をかけ、次のプレーへと走り続け、再び密集戦を繰り返す。LOとして欠かせない体を張った献身さを、強度のステージが格段に高いリーグワン、そして国際舞台でも見せることができれば、同じ東芝で活躍した大野均のような、日本が誇るリアル・ロックに化ける可能性も秘めている。代表に混じればまだ“練習生”レベルのディアンズだが、未来の正代表入りへ、今回の合宿で得るものは他には代え難い財産になるはずだ。成長期の19歳だけに、23年までの大化けも期待したい。

 今回のメンバー発表に伴い、ジョセフHCもコメントを発表している。

「夏のツアーを経験したことで、チーム内には大きな期待と興奮が広がっています。今回は、若さと経験がしっかり組み合わされており、グループ全体に強さと深さがある。何人かの若い選手は、初めてチームに合流します。彼らには可能性があり、今後の日本のラグビー界で一緒に活動していきたいと考えています。彼らが最終メンバーに選ばれることも十分にある。これからの試合では、ホームとアウエーで非常に厳しい相手と戦うことになるが、世界の強豪とコンスタントに対戦することは、2023年のフランス大会に向けて必要な準備になるでしょう」

 2019年W杯以降の“沈黙”を破って再始動した夏シーズンはテストマッチ2敗に終わったが、指揮官は、強豪としっかりと戦えたという感触も掴んでいる。今回の代表戦4試合は次のステップへの移行が期待されるが、ここまでのジョセフHCのメンバー選考を踏まえれば、大幅なメンバー変更やサプライズ起用は少ないだろう。チームのベースとなる中心選手をしっかりと配置して、ゲームプランを着実に遂行することが、この指揮官の信条だからだ。その手堅いセレクションの中で、どこまで選手個々のポテンシャルを引き出し、19年大会とは異なる戦力、コンビネーションを見せてくれるのかに注目したい。

(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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