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ラグビー日本代表、欧州遠征の見所 司令塔は誰に、“ポスト福岡堅樹”争いも熾烈 

ポスト福岡争いの“キーマン”シオサイア・フィフィタ【写真:Getty Images】
ポスト福岡争いの“キーマン”シオサイア・フィフィタ【写真:Getty Images】

SOは2019年W杯組の2人以外に、コンバート、マルチポジション化も

 新戦力の発掘に腐心する中で示された39人。その中でも、チームの指令塔となるSOには田村優(キヤノン)、松田力也(パナソニック)の2人のみが選ばれた。19年大会へ向けたセレクションと変わらない顔ぶれだ。夏の代表戦を見れば、前回W杯で不動の10番として活躍した田村の存在感、安定感は心強いが、次々回大会も睨んだ新世代の指令塔を集め、今回の合宿、実戦で経験値を上げるのが理想だ。顔ぶれが変わらない今回のSO勢について、藤井Dは「ポジションチェンジも考えている。いまコーチ陣の中には、何人かの選手が頭に入っているはずです。このスコッドの中でです」と説明。新たな10番の発掘よりも、現有戦力の中でのコンバート、マルチポジション化を進めていくプランを明かしている。

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 今回のスコッドで考えれば、最も「10番」に近い存在としては、SO経験者のCTB中村亮土(サントリー)、ラファエレ・ティモシー(神戸製鋼)らが候補に浮かぶ。経験者という観点なら、FB山中亮平(神戸製鋼)もいる。ジョセフHCの頭の中で思い描くのはこれらの経験者組か、それとも新たなサプライズか。合宿、テストマッチでの選手起用のお手並み拝見となりそうだ。

 ジョセフHC、トニー・ブラウン・アシスタントコーチのコンビは、日本代表スタッフ就任前には、ニュージーランド勢で唯一優勝を果たせなかったハイランダーズをスーパーラグビー制覇に導いている。チームの財政危機などの影響もあり、限られた戦力の中でメンバーをやり繰りし、若手を育成しながら強化に手腕を発揮してきた。日本代表でのSOの起用実績を見れば、従来通り田村を不動の指令塔として重用しながら、松田にもプレー時間を与えて4試合を乗り切るのが基本ラインになるはずだが、そこに選手起用の工夫や“離れ業”が用意されているのかも注目したい。

 SO同様に選手起用が気掛かりなのがWTBだろう。これまでのジェイミー・ジャパンは、左右WTBにボールを持たせるために、そこから逆算して戦術を組み上げてきた。もちろん、19年大会でも注目を浴びた松島幸太朗、福岡堅樹の“ダブル・フェラーリ”の存在があったからこそのスタイルだ。その福岡が昨季TLを最後に医学部での勉強のために現役を引退。夏の代表戦では、フランスで進化を続ける松島が決定力、突破力を印象づけた一方で、ポスト福岡の最終確定には至らなかった。ライオンズ、アイルランドとの2試合で先発したシオサイア・フィフィタ(近鉄)が一歩リードする中で、マシレワと19年組のレメキ・ロマノ・ラヴァ(NEC)も先発出場を経験。しかし、どのメンバーも絶対的なスピードとコンタクトでのタフさで、福岡に見合うインパクトは見せていないのが現状だ。

 今回WTBで選ばれたのはフィフィタ、FB兼務のマシレワら5人。欧州では松島も合流する。松島以外に絶対的なスピードスターというタイプが薄い中で、柔軟なステップも駆使した独特の緩急のあるランが光るマシレワ、ストレートランと加速が魅力のジョネ・ナイカブラ(東芝)と、それぞれに持ち味はあるが、防御を含めたコンタクトでどこまで結果を残せるかが課題だろう。コーチ陣には、ポスト福岡を模索し育成していくのか、2019年までのように圧倒的なスピードで勝負するWTBコンビからの転換を目指すのかが問われることになる。

 SO、WTBという2つのセクションに注目してきたが、この両ポジションを考える上で、フィフィタがカギを握る存在として浮かび上がる。タイプとしては福岡とは対照的なパワー系のランナーだが、フィジカル自体はテストマッチレベルでも十分通用することをライオンズ戦でも証明している一方で、防御面ではCTBでもWTBでも国際規格としては未知数な部分もある。

 夏の遠征での起用方法を見れば、首脳陣にはフィフィタをWTBでテストしたい思惑があったのだろう。フィフィタ自身のパワフルなランナーとしての可能性をテストし、タッチライン近くのWTBなら、CTB以上に防御の負担を軽減できる。この構想を、秋の代表戦でも継続するのなら、スピードと切れ味の松島、ウルトラフィジカルのフィフィタというタイプの異なるフィニッシャーを左右に配した、19年とは異なるキャラクターのWTBコンビで23年を目指すことになる。

 もしフィフィタを長らくプレーしてきたCTBで起用するのなら、ジェイミー・ジャパンでは攻守で外せない存在に成長するCTBラファエレ・ティモシー(神戸製鋼)との“剛と柔”のアンサンブルが魅力になるだろう。この布陣になれば、ハードタックラーの中村のポジションを1つ上げて「10番」で起用するシナリオも選択肢の1つになる。

 同時に、CTBのポジション争いは、新しい力になるであろうディラン・ライリー(パナソニック)がどこまで主力メンバーに食い込めるかもポイントになるだろう。ライリーがティア1諸国相手にも、パナソニックで披露してきたラインブレーク能力を見せることができれば、ポジション争いは一気に激しさを増すことになる。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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